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19話 ページ28

騒がしい、昼間の都市エデンの街並みを歩いて行く。前方から中学生ほどの子供が数人駆けてきて、Aはそれを半身で避けた。きゃあきゃあとはしゃぎながら後ろへ遠ざかっていく背中を見つめて、そういえば自分が養父に拾われたのもあのくらいの歳の頃だったろうかとぼんやり考える。――もっとも、あの頃の彼女はそこらの同い年の子供よりよっぽど瘦せっぽちで背も低かったが。
懐かしい思い出を辿ったせいだろうか、ほんの少しだけ感傷に浸るような気分になる。自分はあとどれくらいの間、エデン組に居られるだろうか。今日の呼び出しはきっと任務の進捗報告だろう。

幸いにして……と言うべきなのか、ここ半年以上の監視調査の結果、ローレン・イロアスに怪しい動きは見られなかった。反社会的勢力や反国家的思想を持つ集団との繋がりも無い。彼は至って普通の善良なエデン市民に過ぎない。
彼が都市エデンの脅威でないことがわかったからには、これ以上の監視も必要ないだろう。後はいつもと同じ、任務を終えて自分はそっと姿を消すだけ。まるで最初から居なかったかのように。……一周年の祝いの場が設けられる頃、きっともうそこに彼女の姿はない。

「────寂しい?」

自分に問いかけるかのようにAは呟いた。本当にこのまま何事もなくさよならできるだろうか。少しばかり長くエデン組(あの場所)に居すぎてしまったような気がする。なにせ居心地は悪くなかったものだから。
ふっと目を伏せて帽子のつばを目深に引き下ろす。やがて未練を振り払うように首を横に振って、Aはふたたび歩き出した。上官を無駄に待たせるわけにはいかなかった。


「………………は、いま、何と?」

向かった先に待ち構えていたのは、いつもの長官ではない、顔も知らない人間だった。しかし身に着けたスーツの上等さから、よほどの地位を持った人物であることは容易に見て取れた。男は愕然と立ち尽くすAの様子にため息をついて向き直る。

「あのリューグナー氏の娘と聞いたからには、もう少し優秀な人間だと思ったのだがね」
「申し訳ございません。その……失礼ながらわたしの聞き間違いかと、自分の耳を疑ってしまい……」
「……まぁいい。では再度申し上げよう。"鍵"の一族、その末裔にして唯一の生き残り、ローレン・イロアスの身柄の確保が決まった」

聞き間違いでは、なかった。大きな氷の塊で横から頭を殴られたような、そんな感覚を彼女は覚えた。

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作者名:七福 | 作成日時:2024年3月9日 16時

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