17話 ページ21
「運が良ければ60秒は無傷だよ。よかったね」
「……は？」
一瞬、男は目の前の人物が何を言っているのか理解できなかった。その間にも目の前で拳銃のシリンダーを開ける音がして、銃弾がバラバラと手の中に落ちる。目の前の人影はその中からひとつだけを摘み上げ、込め直す。シリンダーをでたらめに回す音を聞いて、男はぞっと背筋を凍らせた。こいつは本気だ。冗談や脅しの類いなんかではない、と。
「はいじゃあ一回目。じゅーう、きゅーう、はーち……」
「ま、待て、待ってくれ！話す、話すから！！」
「あ、そう？それはよかった」
弾もなかなか高いからさあ、なんて笑いを含んだ声で言いながら、目の前の人影は拳銃を男の眉間から離す。軽薄なその声に、男はうなだれて悪態をついた。
「この…………悪魔め……」
唸るように絞り出した声に、軽薄な笑い声が一瞬だけ途切れた。
「それは……ははっ、光栄とだけ言っておくよ」
──都市警備部隊本部庁舎の取調室で、男は語り終えた。補助官として取り調べに同行したローレンは釈然としない心持ちで、留置所へ送られていく被疑者の背中を見送った。煙草の一本でも吸って気持ちを落ち着かせたくても、庁舎内の廊下は基本的に禁煙だ。
「納得いかねえって顔だな。イロアス」
いつの間にかローレンの隣に立っていた隊員が、こちらを見下ろして言った。先の取り調べを担当したベテラン隊員だった。
「ええまあ……この手の供述、たまにあるけどマジ謎っすよね。こっちが動く前に犯人を捕まえて、そのくせ手柄は全部俺らに譲るなんて……」
「……こういう舐めたマネは、十中八九公安局の仕業だろうな」
「公安？」
「ああ。エデン警察本部公安局……偉そうな態度が鼻につく野郎どもだ。その気になれば違法捜査もお構いなし、
見下ろしてくる視線は鋭く、ついローレンは苦笑いを浮かべる。ベテラン隊員はそれに短くため息をつくと、「まあいい」と踵を返した。
「
「ウス！」
短く返事を返して、ローレンはベテラン隊員の後に続く。
大規模な密輸組織が一斉逮捕され、エデン・タイムスの一面トップ大見出しを飾ったのは、それから少し経った頃のことだった。
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作者名：七福 | 作成日時：2024年3月9日 16時
