15話 ページ19
胸の内にじんわりと広がった感覚に思わず心臓のあたりをキュッと掴むと、ライラは不思議そうな顔をして首を傾げた。そんな仕草さえ小型犬じみて愛らしいと感じてしまうのは、きっともうそういうことなのだろう。耳のふちが徐々に熱くなっていくのをローレンは感じた。
「どうかされました？」
「……や、なんでもないよ。んじゃ俺そろそろ着替えっから、ライラも頑張って」
「はい！イロアスさんも、お疲れ様です」
ひら、と手を振って踵を返すと、さっきまで絡んできていた同僚がやけにニヤついた顔でこちらを見ている。やっべ、とローレンが頭の中で叫ぶより先に同僚はガッと腕を肩に回してくる。完全に弱みを握られてしまった。本人が居る目の前であれやこれやと騒がない同僚の人間性に感謝しながら、引くほど鬱陶しいニヤついた笑顔にローレンは思い切り顔をしかめた。中指の一本や二本でも立ててやりたい気分になるのを辛うじて抑えつける。
「……あ、そうだローレン、あの話聞いたか？」
「あの話ってどの話よ」
「西の港にさ、コンテナがずらーって置いてるとこあんだろ。貿易船とかしょっちゅう来るとこ。そこでデカめの密輸取引が摘発されたって」
「は？あそこ？捜査線に上がってたっけ？」
「いや、それがなんでも匿名の通報があって、駆けつけたときにはもう全員縛り上げられてたんだってよ。今日聴取するらしいから、お前も呼ばれっかもよ」
「げぇ、マジかー……聴取する前からもう面倒そうな事案じゃん」
「だよなあ」
更衣室に入っていくローレンとその同僚は面倒な仕事の予感にがっくりと肩を落として、それ故に、すぐ背後でライラがじっと聞き耳を立てているのにも気がつかなかった。
さて、少し時は遡り──
──明け方にはまだ遠い午前0時、エデン中央都市からやや西にある大きな貿易港。その日の業務はとうに終わったというのに、コンテナの並ぶ中をせわしなくうごめく人影がある。さらに、そんな様子をとあるコンテナの上から見下ろす影が二つあった。
「……こちら"梟"、例のコンテナエリアに到着しました」
『様子はどうだ？』
「本日寄港する船はもう無いはずですが、まだ残っている者が居ますね。それも多数……ざっと数えて20人以上。いずれも正規の作業員には見えません」
『なるほど。やはり情報は間違っていなかったようだ。では──二人とも。後は作戦通りに』
「了解」
オペレーターとの通信を切り、人影──Aは、コンテナの上にすっくと立ちあがった。
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作者名：七福 | 作成日時：2024年3月9日 16時
