14話 ページ18
都市エデンに新たな朝がやって来る。仕事場へ向かうローレン・イロアスの足取りは軽やかだった。なんなら鼻歌だって歌えてしまう。
理由は明確だ。昨日、相棒から提案された三人での──自分と、アクシアと、ライラとのコラボ。ライラとのコラボだというだけで舞い上がってしまいそうなのにそこへ相棒も加わって、極めつけは自分の好きなFPSゲーム。気になる人が自分と同じものを好きになってくれるかもしれない……これで舞い上がらないほうがおかしいってものだ。いつかVALORANTなんかも一緒に出来るだろうか。そんな日が来たら嬉しい。
ローレンが都市警備部隊本部庁舎へ足を踏み入れたとき、廊下の向こうからやって来た同僚がその姿をみとめて「よぉ」と軽く手を挙げた。ローレンもまたそれに倣う。
「おいすー。お前当直だったっけ？」
「や、そうなんだよ。もー聞いてくんねローレン？酔っ払いの喧嘩がーって通報が入ってさ、俺一晩中あっちこっち走り回ってたの。マジ偉くね？全人類から褒め称えられるべきだと思う、そうじゃなきゃやってられねえ」
「あーはいはい偉い偉い」
気持ちが籠ってない！と絡んでくる同僚を適当にいなして廊下の奥へ進んだローレンは、隊員用の更衣室に入ろうとしてギクリとその動きを止めた。ふと視線を遣った方向に、さっきまで頭の中に思い浮かべていた人間が居たからだ。
「……ライラ？」
「あ、イロアスさん。おはようございます！」
呟くようなローレンの声をライラは聞き逃さなかった。ローレンの上司と向かい合って何やらメモを取っていた彼女は、振り向いて明るく愛想のいい笑顔を咲かせる。
「なんだイロアス、知り合いか？」
「あ、ええまあ……え、ライラ、なんでここに居んの？」
「サツ回りですよ。社会部の新人は誰もが通る道です」
彼女が説明するところによれば、リアルにおける新聞社社会部所属の記者と同じように、エデン・タイムス社会部の新人記者は通称「サツ回り」と呼ばれる業務を担当するのだという。サツ回りとはいえ回るのは警察庁・都市警備部隊・都市防衛軍の三ヶ所で、それぞれ一人ずつ担当を決められて回るのだとか。
「……で、ここの担当がライラになったって感じか」
「はい！そういう感じです！」
ローレンの言い回しを真似ておどけてみせるライラのはつらつとした笑顔を目の当たりにして、何かじんわりとあたたかいものが彼の胸の内に広がっていくような、そんな感覚がした。
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作者名：七福 | 作成日時：2024年3月9日 16時
