12話 ページ16
「あなた方の情報をわたしに売るということですか」
「まあ、そうやね？」
「……正気の沙汰とは思えませんね。そんなの、あなたにとっては裏切り行為にも等しいんじゃないですか？」
ハ、とライラは軽く鼻で笑い飛ばす。歯牙にもかけないとはまさにこのことか。しかしアクシアもここで諦めるような男ではない。手札はもちろん用意していた。
「そうでもないよ。ライラがおれらの動きを知れるように、おれだってライラの動きを知れる。つまり……」
「相互監視が可能、と」
「そゆこと」
ついでにライラとローレンの仲を取り持つこともできる──とは敢えて口にしなかった。それを本格的に実行に移すのは、ライラが危険人物ではないと確信が持ててからにするべきだ。
「メリットはわかりました。しかしまた、なぜ急に？」
「……実はこの間、ローレンから"A"って女の子の話を聞いたんやけど」
その名前を出した途端、アクシアより頭一つほど低いところにあるライラの両目がわずかに見開かれ、瞳孔がきゅっと狭まった。心の中でひそかにガッツポーズを決める。まだライラとAが同一人物であることが確定したわけではないが、少なくともその名前に心当たりはあるらしい。
「それでおれ、ふと思ったんよね。もしおれらの拘束や逮捕が狙いなら、わざわざこんな回りくどいことせんでしょって。つまりそっち側もまだ、おれらがどういった人間なのか把握しきれてないんだよね？特にローレンがスラム街で暮らしてた頃の経歴なんて、探してもさっぱり出てこないだろうし。まあ……もしかしたら？その頃のローレンを知ってる人間が既に公安局に居んのかもしれないけどね？」
「………………」
ライラは答えない。が、その沈黙こそが答えであるような気もした。こちらを見上げる目つきの鋭さで人の命だって奪えてしまえそうだ。けれど、現状においてこの場の支配権はアクシアにあった。ライラは長い長いため息をつくと、先ほど手渡されたジュースのペットボトルを開けながら呟く。
「……わかりました。あなたの提案を受け入れます」
「ほんと！？やったあ」
「勘違いしないでください、仲間になったわけじゃない」
そんなことはアクシアとてわかっている。目の前の相手が警戒対象であるのはどちらも同じだ。ぴしゃりと言い放ったライラがジュースを一口飲んだのと同時に、廊下向こうの部屋からローレンがひょいと顔を出した。
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作者名：七福 | 作成日時：2024年3月9日 16時
