11話 ページ15
「……──で、スラムで出会ったその女の子がライラにめっちゃ似てて」
「うんうん」
「Aって子なんだけど、他人の空似にしてはあんまりにもその……笑った顔とか、目とか、そういうのが似すぎてる気がすんだよね。だから……どう接したらいいか、まだわかんなくて」
「なるほどね」
太陽はまだじりじりと照り付けている。ぽつりぽつりと拾い上げるように過去の出会いを語り終えたローレンは、片手で頭を抱えてまた大きくため息をついた。
「いやほんとごめんアクシア、こんなしょうもない話聞かせて。マジ中坊かってな」
「しょーもなくなんかないって!ええよええよ。つまりその、ローレンは自分がライラを好きなのかAちゃんを好きなのかがわかんなくて困ってるってことね?」
「まあ……有り体に言えばそうかも」
「そっかあ」
……何も悪いことはないと思う。アクシアは心の中でそう
最大にして最悪の問題点だ。たまたま当人たちが出会って恋に落ちたのならまだマシだが、公安局がローレンの過去を知ってわざとAと容姿の似た──あるいはもしかしたら本当に本人なのかもしれない──ライラを利用しているのであれば、なんともまあ救いのない話である。
どうしよう。どうすればいいんだ。嘘をつくことになるとしても応援するべきか?──いやリスクが高すぎる。どうするんだ、ライラ諜報員の目的がローレンにハニートラップとか仕掛けることだったら。ハニートラップって具体的にどんなんかようわからんけど。たぶんこの前観たスパイ映画に意識が引っ張られている。
悩みに悩んで悩み抜いて、やがてアクシアの頭の中にひとつの妥協策が、さながら天啓に導かれるが如くひらめいた。
「──というわけで、おれたち手ぇ組まん?」
「なにが『というわけで』なのかちっともわからないんですが」
数日後、事務所に置かれた自販機の前で、ライラは苦虫を噛み潰したような顔をした。アクシアは自販機で買った2本のジュースのうち1本を彼女に手渡し、もう1本は自分で栓を開けて一口飲んだ。
「だからね、つまり……おれがライラの"仕事"に協力したげるってこと。言葉を変えれば情報屋、みたいな?」
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作者名:七福 | 作成日時:2024年3月9日 16時