10話 ページ14
「あれ、ローレン何見てんの？」
「うん？切り抜き」
「おれらの？」
「そう」
「へえ」
某日、エデン某所。日差しが熱く照りつける日だった。
アクシアは自動販売機で買ったばかりの炭酸ジュースのキャップを開けながらローレンの隣に腰を下ろした。ぷしゅっと小気味よい音が鳴る隣で、ワイヤレスイヤホンの片耳だけを外したローレンは唐突に「なぁ」と呟くように声をかけた。
「アクシアってさ」
「ん？」
「ライラのこと好き……だったりする？」
「ゴッッッフ！？」
アクシアの喉で強炭酸が逆流した。着ていたものが安いＴシャツだったのがせめてもの救いに違いない。元凶たるローレンはと言えば、胸元をびしょ濡れにして咳き込み続ける隣人をギョッとした顔で見つめている。
「えヤバお前……ハンカチ要る？」
「いやある、ゲホッ、大丈夫……ありがと……」
取り出したハンカチで胸元と口元を拭いながら、アクシアは高速で脳みそをフル回転させた。
おれが？ライラのことを好き？──冗談じゃない。ローレンがそんな勘違いをするに至ったのは手元の切り抜き動画、ひいては普段の自分たちの行いが原因だろうが、それだって実のところは互いの首根っこを掴みあっているからことさら遠慮がないだけで、言うなればお互い地雷の上でタップダンスを踊っているような──
「で、どうなん。仲いいじゃんお前ら」
「無い無い無い無い絶っっっ対無いってそんなん！！一生無い！！！」
一息に詠唱して、あれ？とアクシアは気がつく。どうしてローレンはこんなにおれとライラのことを気にしてるんだ？
「………………あ、もしかして、なんだけどさ。ローレン」
「なによ？」
「ライラのこと……好きなん……？」
「ッスーーーーーー…………終わった。マジ終わった。終わってる終わってる終わってるってこれ」
「好きじゃないの？」
「好きじゃないとは一言も言ってませんけど！？！？」
「うわ声急にデカ」
のけ反ったり蹲ったりするローレンに驚いて取り落としかけたペットボトルを抑えながら、アクシアは隣に座る親友を注意深く観察した。両手に覆われて表情は読み取れないが──隠しきれていない耳のふちは真っ赤に染まっている。暑さのせい、ではないだろう。
「……こんなん聞いたら、アクシア笑うかもしんないんだけど」
「笑わんよそんな。友達の恋愛事情をさ」
「ほんと？絶対？」
「嘘つかんてこんなんで」
促されて、やがてローレンは秘された過去をぽつりぽつりと語り出した。
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作者名：七福 | 作成日時：2024年3月9日 16時
