9話 ページ12
「……公安局が、おれやローレンたちを不当に告発しない保証はあんの？」
「まあ素晴らしい。仲間想いじゃありませんか。……けどそれって、ローレンさんがあなたのお友達だからですか？それとも……彼が"鍵"だから？」
ぎく、とアクシアの顔がこわばる。……なるほど。少なくとも彼はローレン・イロアスの隠された正体について知っているらしい。それも彼の身の上からすれば当然のことだろうが。
なにも公安局が、ローレン・イロアスのことしか調べ上げていないわけではない。同期としてデビューした四人の素性や経歴も、当然すべてライラの頭の中にしっかり納まっている。まさに針のむしろといった言葉が似合うような重苦しい空気が流れたところで、ちょうど転移装置の機械音が止まった。エデンに着いたのだ。一足先に転移装置からひょいと降りたライラは、アクシアのほうを振り向いてにっこりと余裕綽々な笑みを浮かべてみせた。
「それではアクシアさん、また明日。……"ライラ"以外の姿であなた方と会うことがないよう、願ってますね」
呆然と転移装置の中に立ち尽くすアクシアをそのままにして、ライラは夜も更けたエデン中央都市に消えた。
やがて予約していたビジネスホテルに辿り着いたライラ、改めAは、手短にチェックインを済ませるとエレベーターで所定の部屋へ向かう。カードキーでロックを解除し、ぱたんと後ろ手にドアを閉めたところで彼女は大きな大きなため息をついた。
「ハァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜…………心臓死ぬかと思った……」
アクシアとの対面の間、鍛え上げられた演技力で平静を保ってはいたものの、実のところ心臓はずっとばくばく鳴っていたし冷や汗も流れそうになっていたのだ。
緊張から解放された途端、ドッと眠気が襲ってきた。寝たい。眠たい。シャワーも浴びたいけれど、何よりも今は仮眠したい。そのままヨロヨロとベッドへ向かいかけて、はたとその動きを止める。
「…………メイク落とさなきゃ…………」
ボソッと呟いてバッグの中を漁り出す。奥底のほうからシートタイプのクレンジングを引っ張り出し、手早く化粧を落として洗顔も済ませた。どれだけ疲れていても化粧を落とさないままに眠るのだけは言語道断である。ライバーにせよ諜報員にせよ、容姿だって立派な武器なのだから。
どさりとベッドに身体を投げ出して枕を抱き寄せながら、Aは心の中で呟いた。
──アクシア・クローネ。彼は要注意人物にリスト入りさせなければ、と。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 72人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：七福 | 作成日時：2024年3月9日 16時
