【2j3j】エデン妖精譚Ⅱ (ページ10)

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55話ページ10

男の案内でパーティー会場を後にする。何人かのボディーガードと共にエレベーターに乗せられて、ようやく着いたのは高層階の豪華な部屋だった。ここがローレンさんの言うスイートルームなのだろう。
「この部屋は私がずっと貸し切っていてね」と笑った男は夜景の見える大きな窓を背にしたソファを私たちに勧めると、自分はドアに近いほうの一人掛け用ソファにどかっと座り、『商談』を始める。曰く、お家の経済状況はどうだとか、勉強の具合いはどうだとか。久しぶりに会った親戚とでも話すような内容がしばらく続く。警戒心を表に出さないように、なるべく自然な会話になるように、アクシアさんとともに相槌を打つ。
男の周りは相変わらず妖精が飛び回っている。私の目のことを嗅ぎつけた彼らはチラチラと合図を送ってくる。こいつは悪党だぞ、騙されるな、と。

「そうそう……実は最近、私は新たなビジネスを始めていてね。これがなかなか儲かるんだ」
「ビジネス、ですか。それは一体……どのような？」
「まあまあ、そう急かしなさるな。……顧客は君たちのような学生だ。だから、在学中の君たちであればより顧客に近く、より多くの利益を得られると思うよ。なに、簡単なことでね。悩める学生たちに〝これ〟を提供するのさ」

言いながら、男は懐から小さなビニール袋を取り出して目の前のローテーブルに置く。病院で処方される粉薬が入っているような、半透明でごく小さなその袋の中には乾燥させた植物片のようなものが見える。──『Serpent』だ。私もアクシアさんも、そう確信する。

「これは…………法律で禁止されているもの、なんじゃ……」

驚きを隠せない、といった表情を装いつつ尋ねる。男は「問題ない」とニッコリ笑ってみせる。

「これは北方の地方から仕入れているものだ。そこは人里遠く離れているから、仕入先がバレることはまずない。貧しい村でね、『これ』は貴重な収入源だから奴らがうっかり口を滑らすなんてこともなかろうよ。君たちはこれをお友達に配り歩く、たったそれだけで高額の収入を私から約束しよう。お友達はいい気分になって、君たちや私や、北方の村人たちの懐は潤う。……ほら、皆が幸せになるビジネスだろう？」

クロだ。紛れもなく真っ黒だ。
視線だけで見上げたアクシアさんの表情が、心なしか険しくなった気がする。私は考え込むふりをして、イヤホンをコツコツと二回爪で叩いた。『ターゲットが自白した』のサイン……つまり、突入の合図だ。