52話 ページ7
『そんじゃ作戦をおさらいするぞ。まず、『オニキス』と『ロザリア』は
「もちろんです」
イヤホンから聞こえてくるローレンさんの声に、小さな声で返事をする。隣に立つアクシアさんも同様だ。
『よし。対象は、
「はい。やってみせます」
毅然とした声でそう返す。返事の代わりに、イヤホンからはホッと息を吐く音がかすかに聞こえてきた。きっとローレンさんが微笑んだのだろう。
『パーティー会場もスイートルーム周辺も、私服隊員が見張ってる。何かあったらいつでも助けに入るからな。……じゃ、そろそろ通信切るぞ』
そうして通信が途切れたのと同時に、アクシアさんがツンと私の腕をつつく。さりげなく指し示されたほうを見遣り──思わず、私はわずかに顔をしかめた。
目の前を通ったのは、むしろ歩く発光体と言ったほうが良いような男性だ。もちろん彼の身体そのものが発光しているのではない。彼の周りを飛び回る何人、いや、もしかしたら何十人もの妖精が放つ光のせいで、まるで光の塊が動いているように見えるのだ。
初めて先生と会ったときのことを思い出した。あの時も、先生の周りを飛び交うたくさんの妖精の光のせいで、サングラス無しにはまともに顔を見ることもできなかった。
──けれど。今目の前の男の雰囲気と先生のそれは、まったく異なったものだ。
「どうかした？」
「……あの人、ずいぶん妖精に付き纏われているみたいですね」
私の言葉を聞いて、アクシアさんが男をちらと見る。けれど、彼に妖精の光が見えるはずもない。
「妖精が付き纏ってるって、エバさんみたいな？」
「いや、ちょっと様子が違いますね……先生の側に居る妖精たちは、先生が『面白い人』だから側に居るみたいなんですけど、あの人の周りに居る妖精たちからは悪意を感じるっていうか……」
彼らには見覚えがある。私の故郷で乱暴者や怠け者だと評判が立っていたり、妻子にひどいことをする旦那さんのもとには必ずあの妖精たちが、幼い子供のような、しかし確かな悪意を持って付き纏っていた。
いずれにせよ、あの男性が悪人だというのは本当のことのようだ。
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作者名：七福 | 作成日時：2023年3月12日 17時
