【2j3j】エデン妖精譚Ⅱ (ページ41)

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86話ページ41

そもそもの話、Evans(エバンス)というラストネームは実にありふれたものである。オリバーたちが代々受け継いできたそれは、リアルでは「エヴァンの子」という意味合いを持つとされ、ウェールズの流れを汲む。これがありふれた家名であるということはエデンでもそう変わらず、つまりその事実から察するに──建国の王の血筋はもうだいぶ混血が進んで、今ではエデンのそこかしこにその血筋を汲む者が居るのだろう。オリバーもまたその中の一人──そんな風に彼は考察した。

「もちろん、苗字だけが血筋の証拠じゃないよ。エバさんって確か、全然妖精が見えないんだよね？」
「ああ……そうだね。その点はAに頼りきりかな」
「でも今までに、少なくとも二度は『向こう側』から姿を現わした場面に出くわしてるはずだよね？一度目はノーグの村で、二度目はAの地元で。なのにエバさんは一度も姿を見れなかった……」

不思議だよね？とアクシアは問うた。言われてみれば"春を告げる御方"のときはまだしも、泉の上に扉が出現したときは、オリバー以外の全員がそのさまを目にしていたのだ。虹色の瞳を持つか持たざるかに関わらず。
つまり、何があっても妖精を見ることができない──それこそがエデン王の血を汲む証だとでもいうのか。

「建国の王はエデンを追放される際、一切の祝福を奪われたと伝えられているけれど……その祝福が、もしかして、」
「妖精と意思疎通を交わすこと、だったんだね。きっと」

今になってオリバーは、かつてレオスから伝えられた、己の身体に関するレポートについて思い出していた。『脳の著しい活動の低下』『見えている筈のモノを見えていないモノとして処理している』……ここに来てその言葉の意味を知るところになるだなんて。妖精の目の魅了や狂気が効かないのもきっと、かつて先祖が祝福を剥奪されたことに由来するのだろう。

「んじゃ改めて聞くよ、エバ先生。真の王になり得る者として、"常若の園"に足を踏み入れる覚悟はある？」

ふいにアクシアがくるりとオリバーのほうを振り向いて、じっと目を合わせた。薄暗い路地だというのに、何故だかその水色の瞳はきらきらと宝石のように煌めいている。

「"玉座の門"の番人としてあなたに問う。妖精の国で、おれらは完全にアウェイになる。下手したら二度と帰れないかもしれない。それでも……決意は揺らがない？」
「ああ……もちろんだよ、アクシア君。僕は必ず、万難を排してでもあの子と一緒に帰る」