81話 ページ36
「……なるほど。確かに君の言う通りだ、モルガン君。僕がAを助けに"常若の園"へ踏み込む、そこにメリットは一切ない」
オリバーは一度そこで口をつぐみ、ややあってから「でもね」と微笑んでみせる。
「メリットは無くても、理由はあるんだよ」
「理由……？」
「……何故なら、僕はAの家族だから」
家族、という言葉を口にした途端、アーサーの目の中にちらりと炎のようなゆらめきをオリバーは見た気がした。ガタン！と重いはずのソファが音を立てて、アーサーは勢いよく立ち上がる。わなわなと口の端を震わせていた。
「……オレは、認めません。絶対に。そんなの」
「モルガン君、」
「家族？……ハハッ、家族なら助けに行くのは当たり前だって？なんて馬鹿馬鹿しい！！」
言って、アーサーは自分の右目を覆い隠す前髪をパッと払った。プリズムにも似た虹色の瞳が露わになる。まるで怒りを燃料にして輝いているかのような、ギラギラと攻撃的な光を宿していた。
「お願いです、エバンス教授。"常若の園"にはもう関わらないでください。ウィリアムズは自分の意思で攫われたんでしょう。なら貴方がわざわざ危険を冒す義理なんてない」
ギラギラ燃え続けるアーサーの瞳をオリバーはじっと見つめ返し、そうして深くため息をついた。
「……Aにも、同じことをされたよ」
「……は？」
「Aから聞いたんだけど、妖精の目には強烈な魅了と狂気をもたらす作用があるんだってね？だからあの時、あの子もわざわざサングラスを外して僕の目をじっと見てきたんだろう。でもね、モルガン君。君たちのその目は……どうしてか僕には効かないみたいだ」
「………………え、は、それじゃ……？」
「僕はあの子の目に惑わされてるわけじゃない。ずっと正気だよ。僕は僕自身の意思で、彼女を助けに行くって決めたんだ」
「……う、嘘だ！嘘ッ、嘘嘘嘘、そんなの嘘だ！！！」
「嘘じゃないんだなぁ、これが」
ガタガタガタン！とあちこちの机にぶつかり、積まれた本をなぎ倒しながらアーサーはその場に崩れ落ちる。オリバーはゆっくりと立ち上がって緩慢な歩みでその側まで歩み寄り、そして足元を見下ろした。
「思えば……ノーグの村が『Serpent』の密売に手を染めたのはおおよそ三、四年前。君が16、17歳ほどの頃だ。ねえモルガン君。もしかして、あの薬の密売は君の学費をまかなうために行われたんじゃないかい？……君はわかってたんだね。自分の目があの村を狂わせてしまったって」
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作者名：七福 | 作成日時：2023年3月12日 17時
