【2j3j】エデン妖精譚Ⅱ (ページ34)

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79話ページ34

「A！」
「サム行って！早く！！」

叫んだ私に気圧(けお)されるようにして、ボンッと音を立てて巨大化したサムは先生を小脇に抱えてもの凄いスピードで走り去っていった。待って、戻ってくれとこちらに手を伸ばす先生の姿がみるみるうちに小さくなって、あっという間に見えなくなる。
──これが正しい。妖精たちの狙いはおそらく先生だ。
私はくるりと踵を返す。目にした光景はおぞましいものだった。
何重にも重なった光の塊、いや束。長く伸びた、白く輝く腕のようなものがいくつもいくつも迫ってきている。きっとこれが『中枢』の人間たちを引きずり込んだのだ。その腕に伴走するようにして、数えきれないほどの妖精の光が飛んでくる。
私は足を止め、大きく息を吸った。

「私を見ろ！"常若の園"の者たちよ！！」

途端、その場すべての妖精たちがぐるんと一斉にこちらを向いた。輝く腕さえも動きを止め、品定めするかのようにうねうねとうごめく。異様な光景に冷や汗が流れ、握り込んだ拳がぶるぶると震えるが、努めて平静を装いさらに続けた。

「私の名前はA・ウィリアムズ。13年前に君たちが"取り逃がした"子供だ！この虹の瞳がその証拠。──私は戻ってきた。この私を、君たちの女王への手土産とするがいい！！」

"取り逃がした"という言葉に、妖精たちがわずかにざわめく。それでいい。君たちの神経を逆なでするような言葉を、私はわざと選んだのだから。引き攣る口角を無理矢理に吊り上げる。

「どうしたの？もしかして獲物が散り散りになって迷ってる？それじゃあ"また"取り逃してしまうよ。今度は二人も！」

さらに煽る私の言葉で、妖精たちの怒りは最高潮に達したようだ。光が次々と私のほうへ集まって、やがてそれは目も眩むような、太陽を間近で見せつけられるかのような光の塊になる。
この光に呑み込まれたら、もう今度は帰ってこられない。何故だかそんな確信があった。

────先生にも、もう二度と会えない。

「…………さようなら、オリバー先生」

貴方と過ごした数ヶ月は、私の今までの人生の中で、間違いなく一番楽しい時間だった。
震える声で呟く口元には安らかな笑みが浮かび、そうしてそのまま、私の意識は真っ白な光の洪水の中に消えた。