【2j3j】エデン妖精譚Ⅱ (ページ25)

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70話ページ25

ドルイド。確か先生の部屋の本棚で見かけたことがあるような単語だ。きょとんと首を傾げた私を見て、「念のためことわっておくが」とアーサーは前置きした。

「エデンの『森の門番(ドルイド)』ってのは、リアルワールドにおける古代ケルトの祭司とは別物だ。この世界に何ヶ所かあるうち、北部の森にある〝常若の園〟への門を管理する役目を負った一族……それこそが『森の門番(ドルイド)』だ」
「ちょ、ちょっと待って！？〝常若の園〟への行き方って……もしかして何通りもあるの？」
「決まってんだろ。じゃなきゃこうもエデン各地で〝取り替え子〟が生まれたりしねぇよ。妖精はエデン各地に散らばった門を通って〝常若の園〟からこちら側にやってくる。……たぶん、お前の実家の近くにもあんだろ。管理者を失った門がな」

確かにアーサーの言う通り、実家の裏手には大きな森が広がっていたはずだ。庭のすぐ近くにあって、けれど決して近づいてはいけない森だと近所の大人たちはこぞって子供に言い聞かせていた。

「君のお父さんは？まだ北の森の門を管理してるの？」
「……もう居ねぇよ。オレがまだ小さい頃、一緒に〝常若の園〟に引きずり込まれたからな。あそこも今や無法地帯だ」
「あ……えっと、ごめん。立ち入ったこと聞いて……」
「あ゛？変に同情すんな鬱陶しい。誰も言ってねぇだろ気遣えだなんて」
「はぁ！？～～～っもうやっぱ君のこと嫌い！！！」
「あぁそうかよオレだってお前に好かれるなんてまっぴらごめんだね！！」
「はいはいはいストップストップ！落ち着こか一旦ね？も～～～すぐ喧嘩するやん二人とも」

私たちの肩を掴んでぐいっ！と引き離したアクシアさんがやれやれとため息をつく。反撃のために喉から出かかった言葉は、きらきら光る水色の両目からの無言の圧で、なすすべなく飲みこまれた。

「………………わ、たしは、その……お、お父さんもお母さんも、一応ちゃんといるんだけど」

視線をさまよわせた後、代わりにこぼれ出たのは自分でも想像していなかった言葉だった。ハッとして思わず視線を上げると二人とも先を促すように黙って耳を傾けている。数瞬の間、口の中でもごもごと言葉をごちゃ混ぜにしてから、話すつもりのなかったことをぽつりぽつりと私の口は語り出す。

「なんていうかその、私の、お母さんは──……」

取り留めのない、自分語りでしかない話を、二人は遮ることも茶化すこともなく最後まで聞き届けた。