【2j3j】エデン妖精譚Ⅱ (ページ18)

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63話ページ18

「リアルワールドに来る途中で魔に襲われた？」
「おー。桜魔の魔とはちょーっと違うけど」

リアルワールドは都内の渋谷、駅前に林立するビルのうちのひとつ。打ち合わせ帰りのオリバーは、壁に背を預け隣に立つ長尾の顔をギョッとして見つめた。

「それは……大丈夫だったの？」
「んな強い奴でもねーし。悪霊や堕ち神が現世の怪談をエサに引きずり込んだんじゃね？ってのが俺と弦月の見解。までもハルもいねーから詳しいことはわかんねぇや！」
「大丈夫じゃなくない！？」
「だーいじょうぶ大丈夫ちゃんと祓ったから！」

ケラケラと笑って手を振った長尾は「それより」と前方に視線を移す。それに倣ってオリバーが目を向けた先には、戸惑うAにあれやこれやと夏服をあててみる弦月の姿がある。

「あのお嬢ちゃん、えっと、Aっつったっけ？確かにありゃ『本物』だな。妖精だけじゃなく悪霊の類いも見えるときた」
「祓魔師から見ても『本物』なんだ？」
「ああ。それと、これは言おうか迷ってたんだけど……」

ふいにそこで口をつぐんだ長尾はオリバーの視線から逃れるように視線をさまよわせ、わずかに考え込んでからやがて向き直る。

「オリバーお前、あの子が居なきゃとっくに『向こう側』に引きずり込まれてんぞ」
「…………えっ？」
「おっかしーとは思ってたんだよなぁ。お前現世に来るたびに引くほど色んなもんくっつけていくクセして、エデンから来るときはほとんど引っ付けてねーんだもん。あの子が無意識のうちに睨みきかせて、タチ悪ぃ奴は追い払ってんだろ。じゃなきゃお前レベルで好かれやすい人間が今の今まで五体満足で居られるほうがおかしいわ」
「そんなに言う！？！？」
「とにかくだ」

長尾はずずいとオリバーに顔を寄せる。決して背が低いわけではないが、頭半分ほど上にある両目をしっかり正面から見据える。ヘーゼルグリーンのオリバーの目はAのように虹の輝きは持たないが、それでもどこか似たような、思わず見惚れてしまうような──……そこまで考えて、長尾は振り払うようにひとつ咳払いをした。

「Aのことはちゃーんと手握っといてやれ。今危ねーのはお前もだが、あの子はそれ以上だ。『向こう側』に近づき過ぎてる。一歩足踏み外したら吞み込まれんぞ」

いつになく真剣な声色に気圧されて、ごくりとオリバーが唾を飲む音が聞こえた。