62話 ページ17
呆気にとられる私たちをよそに、青年は軽く血払いをすると滑らかな動作で刀を納める。
たった今、異形のものを切り捨てたとは思えないほど軽い足取りで私たちの側まで歩み寄ると、彼はしゃがみ込んで私たちと目線を合わせる。女性と見まがうほどの美貌と、私たちの目にも似たオーロラの輝きを放つ銀色に見つめられて、思わず身を固くする。
「そんなに警戒すんなって。別に取って食いやしねーからさぁ」
少し困ったように笑う顔と明るく聞こえる声とは裏腹に、彼の目は真っ直ぐ射抜くように私を見つめている。アーサーもその視線に気づいたのか、左手で私の肩を掴んで奥へと引き寄せる。
緊張した空気をふいに破ったのは、どこかから聞こえてきたもう一人の男性の声だった。
「おーーい！けいくーーーん！どこに居るのさーーーー！？」
「お？おー、げんづきぃー、こっちこっちぃ」
青年が立ち上がってぶんぶんと手を振ると、タタタッとホーム上を軽快に走る足音とともに紫髪の男性が顔を覗かせた。
「もう、勝手に走って行かないでくれる？」
美人が増えた。いの一番によぎったのはそんな言葉だ。
艶やかな長髪をサラリと揺らした『げんづきさん』は、私たちの姿を見つけると「あれっ」と声を漏らした。
「僕たちの他にもここに来た人が居たんだ」
「そーなんだよ。この子ら襲われかけてたからさぁ」
「桜魔の人間じゃないよね？あの影も魔とはちょっと違ってそうだし」
「どっちかっつーと悪霊とか、堕ち神とかのが近いよなぁ。現世から来たんか？ハルが居たらもっと詳しいとこまでわかったかもしんねーけど……」
「今日ろふまお6本録りだって言ってたもんね」
『けい』さんと、『げんづき』さん。それから、『桜魔』という単語。……全部、聞き覚えがある。
「あの……私たちは、……エデンから、来ました」
「！？おいお前……！」
そろりと声をかけた私を、アーサーがギョッとしてたしなめる。慌てる彼に一言「大丈夫だよ」と微笑みを返してから、ふたたび二人の青年に向き直る。
「私はA・ウィリアムズと申します。貴方たちは……長尾景さんと、弦月藤士郎さん？」
訝しげに眉をひそめる弦月さんの隣で、長尾さんがふたたびしゃがみ込んで私と目線を合わせる。
揺らぐことなくこちらを探る視線はだんだんと確信を持ったものに変わり、やがて私の虹色の目に気がつくと、彼は驚愕に満ちた目で私の左肩を掴む。
「お前まさか……オリバーんとこのお嬢ちゃんか！？」
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作者名：七福 | 作成日時：2023年3月12日 17時
