第28話 ページ29
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ーー逃げるって何だ。
『中原さん!』
「……」
『中原さんってば!』
「……」
『中原中也!!!』
「ああッたく五月蝿───」
確りと握られた手首に上がる息。
真逆あの場で「逃げよう」なんて云われるとは思っては居なかったし、それも半ば道連れだし、その前に私仕事中なんですけど…?
丁度店の近くに止められていた中原さんの車の隣。
五月蝿い、と云いかけピタリと止まった中原さんは先程と打って変わって不機嫌そうに振り返った。
『ちょっと、中原さん?』
聞きたい事は山ほどあるのに。
黙りこくった口に問い質そうとすれば、如何して突然引かれる手。
『へ』
強引なそれにバランスを崩して勿論その腕の中へと傾いた。
説明も予兆も不要な行動に呆れるのは何度目だろう。大体この人は突発的過ぎるし。
『離してください』
確かに退勤まで残り数分で、おまけに小さな個人店で店主以外は私しか居ない職場だけど、何より今は勤務中。
お客の前から逃げ出す(強制)店員が何処に居る?
『離せこの野郎』
しかも相手はマフィアの首領(此奴の上司)
一般的な知識しか知らないけれど、機嫌を損ねたらきっと、あんな小さな老人のお店なんて一晩にして潰されてしまうだろう。
『はあ、もう、中原さ──』
この手で押し返してもびくともしない腕。溜息混じりで呆れた時、何故か黙ったままの中原さんは、その怒ったような目で私の耳に触れる。と、乱暴に「黙ってろ」とだけ云った。
『は、…』
わなわなと口が震える。
善くそんな呑気な事が云えますね、なんて文句を云おうとしても、そんな事を云われ背に手を這わされちゃぐうの音も出ない。行き場を失った手で耳を塞ぎたくなる。が。
「なァ」
塞げず入ってくるその不機嫌な呼び掛けに感じる嫌な気配は。
「手前朝、何処に上がり込ンだ」
『は、朝…?』
完璧何時もより低い声の中原さんに余計な事は云えない。
朝、と云われて記憶を遡ってみる
朝──………。
浮かぶのは自由気ままな蓬髪と厭にも似合う砂色の外套、悔しいけど整った、端正な笑顔。
それは自分でも分かっている。けれど如何して中原さんは怒っているのか。
『…ええと』とお茶を濁す私を静かに見詰め中原さんは腕を緩める。漸く解放してくれたかと思うと
突如引かれる腰。
『えッ?』
バタンッ
私が次に見たのは助っ席の扉が閉められる瞬間で、
──何故、押し込められた上に中原さんが居るのか理解出来ない。
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レインボー文豪娘 - このぶっ飛んだ始まりと、「また家を吹っ飛ばしに行く」というセリフが素晴らしすぎました。最高でした。 (4月14日 22時) (レス) @page40 id: d65177cced (このIDを非表示/違反報告)
しおぽんら(プロフ) - テトさんと同じなのですが、プリ小説という小説サイトで活動していますか?設定もセリフも同じなので気になってコメントさせてもらいました。リンクはこちらですhttps://novel.prcm.jp/novel/U7KPVPevcPuDxlQlBkXn (9月2日 17時) (レス) @page1 id: 535c2b64b5 (このIDを非表示/違反報告)
テト(プロフ) - 初コメがこんなのですみません。あの…プリ小説という小説で活動していますか?なにやらプリ小説内で先程こちらと似たような作品を見つけまして…もしかしたらこの作品がパクられているかもしれないのでコメントさせてもらいました (8月30日 15時) (レス) @page1 id: e3b6735391 (このIDを非表示/違反報告)
黒猫もふお - 神作品ありがとうございますっ!!! (8月18日 12時) (レス) @page18 id: 9c4f5ea239 (このIDを非表示/違反報告)
未栄 - 最高すぎて鼻血出るかと思いました (8月1日 13時) (レス) @page40 id: af42dbf40e (このIDを非表示/違反報告)
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