【文スト】また、雨の降る日に

雨 ページ6

サンドイッチも珈琲も化粧も滅茶苦茶で
自分の性別が女だと云う事も忘れて
ただ一目散に横浜の街を突っ走った

折角整えた髪型も、皺なく袖に通した仕事着(ブラウス)も、輝くほど磨いたパンプスも全て台無し


「_____あ"ん"ごさ"ん"___！！」


壊れんばかりにその扉を開ける

職員は皆驚愕。

息を切らし飛び込んできたAに動作が固まる連中の中、Aは冷静に機械(パソコン)を睨む男へ向かって歩いた
他の社員は驚きで、思わずAの行先を眺めていた

「セーフ」
「はあ」
「セーフ、」
「五分前には」
「セーフ！！！！」


安吾さんは仕方ない、と溜息を吐いて自分の右手首___腕時計を確認した



「……三十二秒前、」

時刻は八時四十九分。
坂口の物静かな声が静まり返るオフィス内に響き渡る

そして社員は同時に思ったであろう
『今日は雨か』と。


ほらセーフ！流石私、


「やったね！おはようございます！」
「おはよー」
「朝から元気だな日外」

ほっと胸を撫で下ろす皆と挨拶を交わして自分の机についた。席は安吾先輩の後ろである。


「…という事は今日は雨ですか、……はあ」

「そう、今日は雨なんですよ！安吾さんはまた徹夜ですか？可哀想」

「貴方が適任な筈の仕事が僕に回ってこうなって居るんですけど」


鞄を開きながら、あははと栄養ドリンク片手に厭味を放つ彼に笑った。

しょうがないしょうがない
内務省異能特務課(此処)は隠密機関で、対しての軍警は国家機関なのだから。

両立ってのも大変なのよ

「でも私は此処の社員ですよ？
あっちはほら、実力行使の為だけの人員だし」

って、安吾さんは私の話を聞かずに唸っていた
きっと今回の案件についてだろう。

私もそう、今回は異能特務課の人間として必ず完遂しなければならない。

……けれど

「ふふ」

思わず口元が緩んで気持ちも引き締まらない
仕事なんて、やる気になる以前の問題だ

思い出す度に唸りたくなってしまう。
あの黒い帽子を思い浮かべて顔を伏せた

手前、と名前さえ呼ばれないけれど
私を指す声はいつまで経っても耳に残っている


「あー…名前で呼びたい」


私だって二人称で呼びたい。
これ位の望みなら罰は当たらないだろう

けど、これ位の望みでも叶いやしないのだ

だからもう少しでも、と思ってしまうの。
神様怒らないで


「女神様、どうか私に微笑んで下さい…！」


パソコンに向かって手を合わせる。
今日こそは、「またね」って云ってやるんだ

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