晴れ ページ45
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脚が縺れそうだ。
すれ違う同僚や知り合いになんて脇目も振らず、ただ一目散に
先だけ見据えて手を伸ばし、また脚を出した。
この押してもらった背中のまま
空を泳ぐように、覚束無い心と足元を動かすの
「_____帽子さん!」
切れた息がうるさかった。
外へ出れば、瞬時に青い光が降り注ぐ。
眩しい光が私を包んで、まるで焦げちゃいそうなくらい輝いて
息の上がった私はそう叫んで、陰った隅に目を凝らした。
その先には___主人を選ぶ黒い帽子。
それは
私の声に気づいたらきっと、振り返ると同時にその耳触りの善い、優しい声で微笑むのだ。
「___ああ、仕事か、お疲れさん」
って。
その先に、貴方が居た
ふわりと上がった口角に、青く深くカラフルで、太陽の光を受けて輝く、まるで夏の海の様な二つの瞳。
きっと手の届かない場所にあると思っていたのに
ふらりふらり。
一歩ずつ近づけば、やっぱり、貴方はそこに居て
「帽子さ___、」
いつだって貴方は、手の届く距離に居た。
それは今だって
「早く来いよ」
いいや、今はそうじゃない。
伸ばした手。数センチ貴方に届かなかった右手は見事に取られ、____流れる様に、優しく引かれた
「傘がねェとこんなにも近くて身軽だッてのに
……勿体ねェだろ?」
ドキドキ、なんて沙汰じゃない
噛み締めた唇から、まるで心臓の音が漏れ出てきそうなほどに苦しい胸を抑えて
ああ、駄目だ。
雨が居ないから、胸の高鳴りも頬の色も隠せないじゃないか
「あの、帽子さ」
必死で髪で隠そうとも退けられて
「あ、あ、の」
耳まで熱が伝わった。
ああ、そっか、だから、……雨が居ないぶん、近くて距離が誤魔化せないのか、なんて
きっと帽子さんは知って居るんだろうな
お願い。
雨が降って欲しい。
そんな事願わなくとも、もう貴方に会えること
「中也さん」
傘が無くても雨音に隠れなくても、貴方の側に居れる事
向き直って目を逸らして俯いて、でもまた
帽子さんの目を見て
「好________」
好き、
そう云おうとしたのに
最後までとは叶わず、まるで遮るように口が塞がれた。
必死の思いをかき消した犯人は、
「___雨には秘密な、」
自らが作った影の中で、悪戯に笑う帽子さん。
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にんじんさん。(プロフ) - 素晴らしい作品をありがとうございます…! (2019年6月4日 16時) (レス) id: 13fcb4bada (このIDを非表示/違反報告)
白狐(プロフ) - あなたもしや…、中也推しですか!? (2019年1月7日 0時) (レス) id: b607d0f086 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 白井なでしこさん» コメントありがとうございます。ありがたい言葉ばかり並んでおりますね笑とにかくありがとうございます!頑張ります! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - 月ノ輪さん» ひゃー、お世辞でも嬉しすぎます…。前作もありがとうございます!そのコメントだけで次も頑張れますので期待に応えられるように書いていきますね!コメントありがとうございました!! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - ユーナ橘さん» ありがとうございます…!少しでも雨に対する思いが伝わればいいな〜と思います。こちらこそ最後まで読んで頂きありがとうございました! (2018年3月30日 13時) (レス) id: 9d2314264a (このIDを非表示/違反報告)
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