【文スト】また、雨の降る日に

豪雨 ページ41

傘は無い
貴方も居ない

なら、この場所に意味はなくて
“約束”なんて言葉もどこかへ消えてしまった

なのに

「…はは、馬鹿だなあ」

どうして私は今、此処に居るんだろう。

沢山悩んだ。
きっと目は腫れぼったくて、声だってガラガラで、仕事を放棄してまで苦しんだのに、どうしてこうもまた、期待してしまうんだろう

雨が降れば思い出してしまう


そう、わかっていたから
だから雨は降らないで、とずっと心の中で祈り続けた。

雨が降れば簡単に
今も、雨の香りが鼻を掠める度に浮かぶ、あの透き通るターコイズブルー。


ポツリ、ポツリ


靴の先で雫の染みが模様を作ってゆく。
それは次に目を開けた時には一面の色が変わっている合図で

ほら、
一つ一つが奏でる音が合わさって

ザアザアと合唱になる
地面の色も空の機嫌も、全てが変わる


「(……何時でも、)」

何時でも思い出せてしまう

考えてしまう
望んでしまう

貴方のこと。雨の事。


「……やっぱり、私、駄目なんです、」

雨に紛れて弱々しい自分の声に縋った。
震える喉を抑えても、目尻は熱くなるままで

息の吸い方を忘れてしまったかのように、

だって、


「私、」


雨は止まない

この場所に貴方は居なくて


「……っ、私、」


誰も居ない空間で
一人じゃ、笑う意味も無い。
明るい声も温かさもない。

貴方が居なきゃ冷たいだけの雨なんて、


雨が降らないで、なんて嘘だった
雨が好きだった


貴方が、大好きだった



「_____…っ、私は、やっぱり、」


いつまでもいつまでも変わらなくて
嫌いなんて云いたくなかった
立場なんて知りたくなかった

でもそれを超えても、やっぱり、やっぱりね




「____っ、…帽子さんが、好きなんです」









「──あァ、俺もだ」


涙が、溢れた。
その瞬間に伝わる体温。後ろからの声。触れる髪。回った手。突然雨が遮られて、影の中で誰かが私を呼んだ。

いつかの温もりが
あの人の香りが
優しい声が、全部、聞こえる。

雨の音が、遠くで鳴る



「A」

なんで、なんて
大好きな手が、冷えた体を包み込んで

どうして、なんて
間近で伝わる声が、私の心臓を落ち着かせた


「A、ごめんな、好きだ」


傘の下で静かに、陰に隠れて後ろから云われた言葉。それはずっと私が云いたかった言葉なのに

ぎゅっと私の前にある腕を握った。


「A」

ただただ涙が溢れた
嗚咽が漏れそうになる



「待たせてごめんな、…これじゃァ、風邪ひいちまうよな」

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