【文スト】また、雨の降る日に

雨 ページ1

「お疲れ様です！」

その一言と同時に、鞄と傘を持って外へ飛び出した。
今朝テレビで見たお天気予報ではヨコハマは、雨。
いつもニコニコしているお天気予報のキャラクターは涙を流していた。

それに対して私の口元は、頬が痛いくらいに吊り上がっている。後ろから私を見送る「今日も元気だな」「お疲れ様〜！」の声が聞こえる。

時刻は17時32分。
仕事は定時丁度に終わらせた。普段はそんな器用な事出来ないけれど、今日は特別。

今日は、雨なのだ。
一週間ぶりの天気に心躍らせオフィスを出ると、眼鏡の似合う部長さんとすれ違った。
彼女は湿気がどうのこうので雨が嫌いだ。


「あら、本当にAちゃんは雨の日が好きなのねえ。行ってらっしゃい。」

「はい！ありがとうございます！行ってきます！！」


今日は、雨ですよ。
窓いっぱいに広がる雨雲を目前にして目を輝かせると、出入口付近にて珈琲の香りが漂う課長さんとすれ違った。
彼は交通網がどうのこうので雨が嫌いだ。


「おおい日外(あぐい)！走って転ぶなよ！今から彼氏の所だろう」

「か、かか彼氏じゃ！ないです！！」


そう、彼氏なんかじゃあないのだ。
私が勝手に好意を寄せているだけで、全く、違う。

漸く出口に辿り着いた。綺麗に舗装されたコンクリートは、水に覆われ鏡のようになっている。私は反射する街を眺めてから目一杯に息を吐いてぺトリコール(雨の香り)を吸い込んだ。今日しか嗅げない大好きな香り。

そうして髪を整えコンパクトミラーを見てから、奮発して買った十八本骨傘(小洒落た傘)を広げて靴を鳴らす。

本当はスーツも脱ぎたかったけれど。一分一秒でも無駄にはしたくない。
今日の為、何もかも頑張って来れたのだから。


そうして私は、ご満悦の笑みを浮かべはある場所へ向かった。
皆会社帰りや学校帰りで、小さな折りたたみ傘に複数人入ったり、鞄を傘にして雨を凌いでいた。

傘にぶつかり奏でる雨音。
踏み込む度に弾け飛ぶ水溜り。
太陽を隠してゴロゴロと歌う灰色の雨雲。

でも、今日は落雷は無いでしょう。

そう。見慣れた雨雲の心模様は手に取る様に判るのだ。

今日の私は自分でも分かるほど、まるで無邪気な子供で、純粋で、遠足前の小学生のよう。

ああ、どうか明日も降ってくれるといいな。
そう願いながら、港付近の商店街を抜ける。そしてその角を曲がった時、道端にぽつんと大きな傘を見つける事が出来た。

覗くのは、橙掛かった綺麗な癖っ毛である。

雨→

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