第36話 ページ36
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「必要になったら──」
「その時には、彼奴を引き摺ってでも無理やりマフィアに取り戻しますよ」
出たのは呆れ笑い。
俺はぱちくりする首領の目を見て、口角を上げながら肩を竦めた。
もう時期街を焼き切る太陽が沈む。
残酷な程に綺麗な夕空。町や景色は何年経ったって変わりやしないのに。
俺を置いて広がる空には、淡い紺色が広がって。
何も知らない首領の横顔を、明るく、象っていた。
そんな俺達の合間に、ふと、邪魔しない様に気遣われた静かなノック音が鳴り響く。
「───首領 」
扉の前で警備をしている黒服の声だ。
普段は幹部が中に居る時点で声を掛けるなど有り得ない。
故に、何処か此方を気にしつつも、焦る様な声に顔を見合せ、首領とはてなを浮かべた。
「?」
「……何かね?」
***
「────敦君」
「はい?」
昨日の報告書を仕上げた後。
警察から任された仕事の調べ物を、沢山のファイルに囲まれて片付けて居る最中だった。
いつも通りお昼に出勤をした太宰さんが僕を呼ぶ。
すらりとした身長で今日も飄々と机の隣に立ち、僕に笑いかけるのだ。
「はい、これ」
いつもと違う点と云えば、その太宰さんが、彼女ならぬ女性をこの武装探偵社に連れて来た事。
そして太宰さんがその女性───運命的にも、数日前僕が珈琲を掛けてご迷惑を掛けてしまった女性を武装探偵社の一員にしたいと云った事だ。
「……これは」
「敦君に返しておいてって、彼女から」
僕は渡された白い手拭いを見詰めてから、太宰さんを見上げた。
ふわりと微笑む僕の上司は、きっとこの微笑みだけで女性を射止めてしまうのだろう。そんな笑みを浮かべて、僕に本来渡す筈だった彼女の代わりに、あの日渡した手拭いを、差し出したのだ。
「あれ?でもAさんは……」
「Aは昔から、私の云う事なんて訊きやしないんだ」
まるで思い通りにならない子供を諦めるかの様に。
肩を竦めて笑う太宰さんは、僕が云いきる前に「やれやれ」と手を広げ、空いた手を外套に突っ込んだ。
その返答に顔を上げたまま口を開ける。
「何だい。意外かい?」。
二人は確かに、あの後社長室に了承を得に行った筈だ。
けれど太宰さんが此処に居ると云う事は。多分、そう云う事で。
「……いや。太宰さんにも、そう云う女性が居るんだなって」
「はは。まあ、私は彼女の、そう云う所が好きだからさ」
「適わないね」。と、太宰さんは、呆れて、幸せそうに笑っていた。
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空浮 - 気づいたら全部読み終わってました!めっちゃ感動しました!ありがとうございました (3月26日 16時) (レス) @page45 id: 29094487c6 (このIDを非表示/違反報告)
(3)(プロフ) - この儚い感じがめちゃくちゃ好きです!!なずなの花言葉見て尊敬しました!素敵なお話をありがとうございました!! (9月22日 22時) (レス) @page43 id: 3b6fa5f09a (このIDを非表示/違反報告)
べべべーべ(プロフ) - ぼろっぼろに泣きました。とても素敵な作品でした。中也の立場にも胸が締め付けられました…ありがとうございました (9月12日 19時) (レス) @page45 id: 49ba69b450 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - aさん» 密かでも死ぬほど嬉しいですここまで長くなってしまい申し訳ありませんでした!並びにお付き合い頂いて本当にありがとうございました!完結できたのは読んでくださった皆様のおかげなので…コメント噛み締めて余韻に浸らせて頂きますね…ありがとうございました! (2023年3月31日 20時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - yuuki Sさん» 最後まで本当にありがとうございました…!何度もコメントくださってとても嬉しかったです。私のモチベでした( ᐪ ᐪ )♡寂しいと言われこちらも寂しくなってしまいました。終わらせるのが惜しいです。本当に最後までお付き合い頂きありがとうございました! (2023年3月31日 19時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
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