第34話 ページ34
.
隣の部屋から現れた、肩に付かない位のボブヘアの女性。
睫毛の長い優しい瞳で見詰められた後、今度は、私の頭に手を乗せた。
『え、あ、あの?』
「安心しな。此処にはマフィアから移籍した奴も居る。
こう見えて此奴は皆から信頼されてるんだ。誰も反対なんてしやしないよ。───ねェ、乱歩さん?」
そう、問いかけられた一番遠い席の少年───否、青年は、如何にも探偵の装いで、椅子からひょこっと降りるとスタスタと私の前にやって来た。
「……ふぅん」
何だ。急に後ろめたさが急に襲いかかり、太宰に目配せをしたが、笑って手を振られた。
「君」
『……は、はい?』
切れ長なのに大きな瞳。太宰とはまた違った、全てを見透かしそうな緑色で私を覗き込み、そして、面倒臭そうに口を開く。
と、思いきや。
「───善くやった!それ、僕の好きなお店の甘味!丁度敦にお遣いを頼む所だったんだ〜。入ったら僕の助手にしてあげるよ!」
『は、はあ……え、はい?』
ひょいっと右手に提げて居たバウムクーヘンを奪い取られ、泥棒猫の様に帰ってしまう。そして戻って来る。
「あ、太宰切って」
「……はは、はい。一寸待ってて下さいね」
それ敦君に渡す心算だったんだけど!?
予想外のやんちゃぶりに目をぱちくりさせ、何も口に出来ぬまま置いて行かれる。でも、多分あれだ。こう云う時、この人がこの社で一番──。
「そう、僕が一番偉い!」
『ですよね……って、え?』
「どうせ敦に渡しても僕の物になるんだから、こっちの方が早くて善い」
早速切られた甘味を頬張る名探偵。
まるで心の中を丸ごと覗かれた様な返しに驚いている私を置いて、開けられた窓から平和な風が吹き付けた。
「善い景色だろう?」
名探偵の相手を終えた太宰がふと横に立つ。
ただの一室。其れなのに、眼下に広がる街を眺めるみたいに、二人して並んで忙しく走り回る社内を眺めた。
「織田作が、どうせなら人を助けろってね」
『……織田作さんが?』
「嗚呼。最後にね。
……此処はきっと、Aにも向いてると思うよ」
赤い着物を着た少女と目が合って、思わず口が綻んだ。
未だ齢十歳弱くらいだろうか。嗚呼、まだまだ之から、此処で起きる沢山の出来事が彼女の人生を彩って行くんだろうな。
そう、思うだけ───此処に立っているだけで、心が暖かくなるのが判った。
だって、私の人生も、そうだったから。
『────ねえ太宰。お願いがある』
*
812人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
空浮 - 気づいたら全部読み終わってました!めっちゃ感動しました!ありがとうございました (3月26日 16時) (レス) @page45 id: 29094487c6 (このIDを非表示/違反報告)
(3)(プロフ) - この儚い感じがめちゃくちゃ好きです!!なずなの花言葉見て尊敬しました!素敵なお話をありがとうございました!! (9月22日 22時) (レス) @page43 id: 3b6fa5f09a (このIDを非表示/違反報告)
べべべーべ(プロフ) - ぼろっぼろに泣きました。とても素敵な作品でした。中也の立場にも胸が締め付けられました…ありがとうございました (9月12日 19時) (レス) @page45 id: 49ba69b450 (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - aさん» 密かでも死ぬほど嬉しいですここまで長くなってしまい申し訳ありませんでした!並びにお付き合い頂いて本当にありがとうございました!完結できたのは読んでくださった皆様のおかげなので…コメント噛み締めて余韻に浸らせて頂きますね…ありがとうございました! (2023年3月31日 20時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
高澤白(プロフ) - yuuki Sさん» 最後まで本当にありがとうございました…!何度もコメントくださってとても嬉しかったです。私のモチベでした( ᐪ ᐪ )♡寂しいと言われこちらも寂しくなってしまいました。終わらせるのが惜しいです。本当に最後までお付き合い頂きありがとうございました! (2023年3月31日 19時) (レス) id: 4197b069bb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ