【銀魂】五回目の乾杯で酔えば【坂田銀時】

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胸を占めていた想いを、謀らずも口にしてしまった後も、不思議と後悔の念は湧き起こらなかった。


むしろ、とうとう言っちまったか、と。

やっと面と向かって言えたか、と。


妙に俺はあっさりとした、凪いだ心でいた。

が、自分の顔が赤くなっている自信はある。

そりゃそうだ、後悔しないにしても、恥ずかしい言葉であることに変わりはないのだから。


それは聞き手の方も同じらしく、先輩は血色の良い頬を更に赤くして、俺から視線を逸らす。


「……いきなり、変なこと言わないでよ。反応に困るじゃん」


ピンク色に染まった耳の先とか、逃げ場を求めて泳ぐ視線とか、いじけたような形に結ばれている唇とか。

今の先輩には、俺に積年の想いをぶちまけさせる条件が十二分に揃っていて。

口を突いて、こんな言葉がこぼれた。



「先輩の彼氏ポジション、そろそろ本気で取りに行ってもいい？」



弾かれたように、先輩が顔を上げた。

途端、熱っぽい視線が絡まり合う。

見開かれたアーモンド型の瞳は、世界のどこの夜空よりも透き通っていて綺麗で。

それに見合った綺麗な言葉を探してみても、やはり不恰好な言葉しか見当たらない。


「マジでおかしいぐらい、俺の頭ん中、先輩のことでいっぱいだから」

「……な、」

「多分……っつーか絶対、今までもこれからも、先輩以上に好きな女なんて出来る訳ねェし、幸せにしてやりてェなって思う女もアンタだけだろうし…………って、あーくそ！自分でも何言ってんのか分かんねェ！！」


赤面する先輩から顔を背け、わしゃわしゃと自分の髪を掻き乱す。

場に立ち込める変な空気のせいで居心地は最悪だった。……まあ、そんなのは俺の自業自得なのだが。

ひとしきり髪を掻き乱した後、俺は「とにかくく……」ともう一度、火照った顔もろとも、先輩に目を向けた。


「……本気で先輩にベタ惚れだから」


全く、自分の言葉選びのセンスの無さには心底うんざりさせられる。

妄想の中ではもっと格好いい台詞を吐けていたはずなのに。

……そうは言っても、俯いた先輩の耳が誤魔化しようの無いほど真っ赤に染まっているあたり、俺の台詞はそこまでひどくはなかったのだろう。

そんなことを心中で呟き、自分を持ち上げようとしていると、沈黙を乱したか細い声。


「……坂田は……いいの？」


いい───とは何がだろう？

俺はどう答えていいのか分からず、熱い頭を傾けた。

そんな仕草は俯いた先輩には見えていないはずなのに、しかし彼女は俺の疑問を読み取ったかのように蚊の鳴くような声で続けたのだった。

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