【銀魂】五回目の乾杯で酔えば【坂田銀時】

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素面なら誤魔化したろうが、アルコールが回って箍が緩んでいる頭は、容易に私に口を開かせた。


「……愚痴っていい？」

「ああ、気が済むまで愚痴れ。俺も後で愚痴らせてもらうし」

「……すんごい胸糞悪い話だけどいいの？」

「いい」

「……途中でやめてって言ってもやめないよ？」


いい、と坂田は私の目を真っ直ぐに見詰め返して頷いた。

私は木製のテーブルに視線を落とし、


「……じゃ、愚痴っちゃう」


そう言って、語り始めた。


「私さ、三年間も無自覚で不倫してたんだよね」

「……は？」


唐突なカミングアウトに、坂田は絶句していた。

私は薄い笑いを漏らして続ける。


「訳分かんないでしょ？私もイブの前日にそれを初めて知らされてさ、びっくりしちゃった」

「ど、どういうことだよ、無自覚って……」


恋人が、実は既婚者だったの、と。


「ひどい話だよね、私がその人と付き合った頃から既にその人には奥さんがいたんだって」

「そりゃつまり……独身だって偽って、先輩と付き合ってたってことか……？」

「そういうこと」


鋭く息を呑む気配。

私は顔を上げられなかった。


「奥さんと上手くいってなかったらしくてね、寂しかったんだってさ。それで、新しい彼女を作って心の拠り所にしようとしたみたい」

「……」

「でも、今月の頭にその奥さんとの間に子供が生まれたらしいの。それで、それなりに父親としての自覚ってのが芽生えたんでしょうね、私に電話で全てを暴露して、『だから別れて欲しい』って」


自分勝手だよね、と私は吐き捨てるように言った。


「今まで散々『愛してる』って言ってたくせに、『子供を見ると罪悪感に駆られるからもう別れてくれ』って……じゃあ私の気持ちはどうなるの？今まで騙し続けた私には何の罪悪感も湧かないの？」


実際にそう訊いた。

スマホを握り締めて、泣き叫ぶように怒鳴った。

返された答えは、淡白なものだった。


「『お前とは所詮、そういうことだけの付き合いだったんだよ』って。……人ってこんなにも開き直れちゃうものなんだって、呆れちゃったよ」


……最低だと思う。卑怯だと思う。下劣だと思う。

でも、忘れきれない。面影にすがってしまう。

こんなの相手の思うつぼなのに。


「……どうしても、忘れられない……ほんと馬鹿だ、私……」


涙の流れる様を見られないよう、顔を覆った。

そんなことをしたら、化粧が乱れてしまうけれどそうせずにはいられなくて。

やがて、遠慮がちに坂田の手が背中に置かれたのだった。

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