【twst夢】拗らせまくり、はや三年。【イデア・シュラウド】 (ページ28)

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『先輩、いなかったな』

小さく呟いて、街灯の下一人歩く。

今夜はバレンタインデー故、サプライズでチョコレートを渡しに先輩宅を訪れた。

しかし、家の中は真っ暗で誰もいなかったのだった。

仕事かな、社会人だし当たり前だよね。

紙袋の底の綺麗にラッピングされた菓子が、酷く気の毒に思える。

ガチャッ

沈んだ心で玄関を開けたところで初めて、違和感を感じた。

『あれ、電気ついてんじゃん。消したと思ったのに』

少し警戒しつつリビングのドアを開けると、

『っうわっっ？！？！何、なんで？！』

「バレンタインデー、恋人の日とも呼ばれるこの日に、君は彼氏を置いて外をほっつき歩いていたと」

ダイニングテーブルに両肘を突き、俯きながら語るその影。

「どこ行ってたの、A氏」

イデア・シュラウドが顔を上げると同時に、青い炎が揺らめいた。

「君のことずっと待ってたんだけど？その格好、明らかに仕事帰りじゃないよね？何してたの？」

ああ、なんだ。

『…行き違いだったわけか。ふふ、なんか面白いね』

「え、行き違いって、」

私は黙って、赤いリボンの掛かった小さな箱を彼に手渡す。

蜂蜜を思わせるな瞳が、驚いた様に見開かれた。

『どこ行ってたかでしたっけ、貴方の家ですよ。ご不在でしたけど』

「っは〜〜〜〜恥ずかし！全部拙者の勘違いじゃん最悪」

なんて呻いて顔を手で覆う先輩が、可愛くて仕方ない。

「あ、あの〜実は拙者からも贈り物がありまして…もらってくれたら嬉しいな〜なんて…」

そうか、私の文化圏では馴染みがなかったが、ここでは男性から女性への贈り物が一般的だったっけ。

先輩が指先を少し動かした刹那、視界が赤く彩られた。

『わ、すごい…！』

気づくと腕の中に真紅の薔薇の花束を抱えていた。

「薔薇なんてベタ中のベタだけど、その、ロマンあるじゃん？」

これ何本あるんだ？ニ、三、四…

「いや人の話聞こう？君ほんとそういうとこですぞ？まあ…二十四本ですけど」

『わーいたくさんあるー！』

「いくつだよ君さぁ。あとこれも、受け取ってくだされ」

そう言う先輩が取り出したそれは、角ばった箱の中で眩い光を放っていた。

何より純粋な銀色をした光を、彼の手が掬い上げて私の首に回す。

「ど、どう？気に入ってくれた？その、死ぬ程似合ってるよ」

頼りなく笑う顔が堪らなく愛しくて。

『もー！好きです！！キスしてやる！』

いよいよ我慢できなくなり、骨ばった彼の体に倒れ込んだのだ。