a.08 ページ15
親しげな女性の声、イデくん、青く燃ゆる髪、そして突然の予定キャンセル。
これらが並んだときに導き出される答えはそう多くないだろう。
先輩は私との予定を無しにして、違う女性と会っている。
私の中で出した結論はこれだ。
決定的な証拠が無い事柄に対して喜んだり悲しんだりするのは阿呆のすることだと思っていた。
が、今は自分こそがその阿呆だった。
どうして、自分は結局他人止まりなのか、私より別の人を優先したなんて。
自分にこんなにも醜い感情があるなんて、知りたくなかった。
否、知っていた上で目を背けていただけだったのかもしれない。
『因みにですけど急用ってどんな用事ですかね？？』
「急な仕事。ほんとにサーセン」
嘘つき。
いっそ仲良しな女の人とおうちデートです〜、って言ってよ。
そしたらさっぱりきっぱり諦められるのに。
私のしょんぼりとぼとぼウォークは、いつのまにか怒りと哀愁早歩きに変わっていた。
悔しいのか悲しいのかどちらともなのか、そんな涙が溢れそうになる。
でも私は大人だから泣かない、泣かないよ。
翌週になり、「今日こそは」とのコールが来たがとてもそんな気分にはなれなかった。
代わりに私は未だ胸に残る黒い思いを電話に乗せて吐いてしまった。
『実はあの日私見ちゃったんですよね。先輩と似た人が女の人と歩いてるとこ』
「…え？」
やっぱり見間違いじゃなかったんだね。
『どなただったんですかね？仕事の関係には見えませんでしたけど』
「あ、あああの人はなんでもないよ。いやなんでもなくは無いけど…」
『はっきり言えない関係ですか』
自分でもこの時は言い過ぎたと思った。
私にこの人を責める権利なんてない。
だって私と彼の関係はただの先輩と後輩。
「そういうことじゃなくてですね、もう、ほんとに気にしないで。ドタキャンの件はいくら謝っても足りないけど…」
『そうですかそうですか。昨日のことはもう気にしなくて良いですよ。私も気にしないので』
我ながら意地の悪い物言いである。
余裕のなさがバレバレだ。
通話を切った途端に自己嫌悪と罪悪感が私を襲った。
『悪いのは私じゃないし』
感情を掻き消す様にそう呟いた。
今日はやけ酒かもしれない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 20人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Matyu | 作成日時：2023年9月19日 21時
