12月12日 ― 恋堕好日 ― (ページ14)

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□02. ページ14

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何となく、どうやら隣から聞こえてきている気がして

そっと壁に近づいた

分厚い壁の向こうに耳を澄ませるけど、何も聞こえない

・

浮かんだのはさっきの断崖絶壁

有名すぎるサスペンスドラマのテーマソングが

頭の中で再生されて

すっかりドラマの主人公気分の私は

廊下の様子を見てみようと

重たいドアを、音をたてないようにそっと開けた

・

顔だけを覗かせて、見回しても

期待してた人影はない

ちょっとだけ残念な気持ちになりつつも

そんなドラマみたいなこと起こるわけないと気が付いて

…転んだとか、椅子が倒れたとかかな？

音の正体がわからないまま、顔を引っ込めようとしたとき

ガチャリ

少し距離のある隣の部屋のドアが開いて

飛び出すように出てきた男の人が

閉まったドアの前で立ち尽くすのを見て

ドアを閉めようとしてた私の手も止まった

・

頭をガシガシと掻いてから

小さく肩を落として途方に暮れた様子のその人は

当然私にも気付いていない

と、突然また開いたドアの奥から

何かが立て続けに飛んできた

「あぶなっ！……」

思わず漏れた声に、慌てて口を押えたけど

男の人が気が付いて振り向いた

廊下の壁に当たって、鈍い音を立てて落ちたのは

その人が履いてたらしい靴と、スマホ

その人は、かがんでそれを拾い上げる

よく見るとその人は

着ている白いシャツは赤紫に染まっているし

とにかく、決して楽しい状況じゃなさそうなことだけは確かだった

顔を背けるようにして、歩き出そうとしたその人を

思わず呼び止めたのは

サスペンスじゃなくて、昼ドラの匂いがしたからなのか

もしかしたら自分と似たような境遇に

たった今陥ったのかもしれないその人に

勝手に自分を重ね合わせて同情したせいなのか

・

「…あの、大丈夫ですか？」

素早くあたりを窺うように見回したその人が

中途半端に廊下から顔を覗かせてる私の前に立つ

？「……あぁ、あのさ、悪ぃんだけどちょっと洗面所借りていい？」

でもとにかく私は、すっかり持て余し気味のこの部屋に

その人を招き入れた