episode.23 ページ24
今日もゆるく縛られていた髪。
両サイドに引っ張って縛り直してから座る。
ソッと電子ピアノに触れる指先が綺麗。
丸みと艶のある短めの爪が余計指を綺麗に見せる。
一瞬息を吐いたかと思うと、楽譜は一切無しにサビを引き始めた。
本物だし、楽譜なんて必要ないのはわかる。
そういう人の方がきっと多い。
俺を感動させた大きな理由はそこじゃない。
音色だ。
少し激しいのに、どこか悲しげ。
辛そうなのに、振り切れているような感じ。
歌を知っているからということもあるからだろうけど、よく伝わってくる。
歌詞があるからこその俺らの歌を
歌詞が無くとも表現出来る自分の歌に塗り替えてきた。
これが才能。
努力を重ねてできる才能と、生まれた時から持っている才能。
この2つの才能の分け方をよく聞くけれど
彼女に関しては、どちらも持ち合わせているんだろうと思う。
よく弾くピアノと違って指に少し力が入るだけで音が鳴るような電子ピアノ。
軽いから間違えやすいとよく聞くけれど気にならない。
違う、間違えてない。
本物のグランドピアノで弾かれているよう。
それは、本物で聴くともっと素晴らしいことだということで
俺らはこれに勝つ歌を、歌わなければならない。
どうやって動いているんだと問いたくなるような指。
ものすごいスピードで進んでいるのに穏やかな曲調の部分。
全てが完璧で、凄いとしか言いようがない。
俺は、この音と一緒に仕事をするのかと、どこか誇らしく、悔しく思えた。
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作者名:Layla x他1人 | 作成日時:2018年4月5日 14時