焦がれた背中、焼きついた瞳 (ページ3)

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外に出た日、こっぴどく怒られたが術式が使えることとそれが相伝の天風術だったことから大目に見られた。
それでも私が女であることから私の今後について両親が頭を抱えていた。
そして数日後事件が起こった。屋敷に火が放たれたのだ。
この火事によって家に仕えてくれていた人と両親が亡くなった。事件の犯人はわからないまま、鞍馬家の当主が居なくなっては困るという呪術会上層部の意向によって私は当主になった。

「A、お前には辛く当たってたかもしれないが愛してることだけはわかってくれ。」
「大好きよA。生きて、幸せになって」

両親の最後の言葉が頭に響く。あわただしく変化する環境を理解することもできず、ただ何も考えずに無表情のまま流れてくる涙をガラス越しに眺めている。

「これから、五条様へあいさつに向かいます。」
部屋に入ってきた使用人らしき人がそう告げた。
「貴方はすでに鞍馬家当主です。先代が守ってきたものをきちんと守ってください。」
正論だな、と思った。
「しかしあなたは女性だ。鞍馬家の当主たるもの男でなければなりません。これからは男装を常にしていただきます。決して私以外にばれてはなりません。」
そうだな、とおもった。
『分かりました。』
悟君のおかげで捨てかけていた感情や思考を持っていてもいいのだと思えた。でもそれはやっぱり私には必要なかったようだ。

『お初にお目にかかります。先代鞍馬義守(よしもり)より鞍馬家当主を引き継ぎました、鞍馬翔と申します。是より身命を賭して五条様にお仕えさせていただきます。』
わずか10歳。これまで両親に叩きつけられてきた礼儀作法と、もし私が当主になったときのためにと教え込まれてきた男として生きる際の心構えの元最大限の虚勢を張って頭を下げた。
「・・・」
返事がないことが怖かった。何かまずいことを言ってしまったのだろうか。そう思ってゆっくりと顔をあげた先には
「翔って誰だよ。Aだろ？」
悟君がいた。あぁ、いくら男装していても、どれだけ虚勢を張ろうともこの人は私だと認識してくれるのかと、家を出る際に何度かあったことのある人に「こいつ誰だよ」といった陰口をたたかれたことを思い出す。
『Aは死にました。先代がなくなった火災で一緒に死んでいます。私はAの従妹です。』
全部用意してきた嘘。
そして用意しておいた偽りの媚びた笑顔。
焦がれた背中は嘘をつく相手だった。