焦がれた背中、焼きついた瞳 (ページ14)

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「甘い声の一つも出ぬか」
「可愛げのない奴よ。」
「貴様それで女か？」
呪霊に嫌というほどもてあそばれた挙句このような言葉をかけられてももう何も感じない。悲しいこともうれしいことも怒ることも何もない。感情が溢れたらそれはただ疲れるだけだということは知っているから。悟様の一言で倒れてしまった時に学習したことだから強く覚えている。
『要件が済んだようなので、私は帰らせていただきます。儀式の準備もございますので失礼いたします。』
身なりを整えて外に出た。スマホを確認すると招集を受けここに来た日から四日が過ぎていた。

五条side
爺どものところに嫌々行くとかなりの頻度であいつの呪力を感じる。ただそれは長い間ここに滞在したんだろうなという濃い目の残穢をこの目が見せているだけなんだけどね。
今日も今日とて下らないことで呼び出され、めんどくさいことこの上ない案件だった。僕だって暇じゃない。でも今日はいつも以上に濃いあいつの残穢を目にして何か違和感を感じた。
「一つ、聞いても？」
「なんだ。手短に言え。」
「何故鞍馬の残穢がこれほど濃く残っているのですか？この残り方は数時間居たっていうわけではなさそうだ。」
「それを答えたところで貴様に何のメリットがある。」
「メリットなんてねぇよ。ただ、これまでにあまり見たことのない異常な量の残穢が見えるから聞いてんだ。」
「口の利き方には気を付けろ。」
「あんたらこそ、僕の機嫌をあまり損ねるな。」
「答える義理はない。もう下がれ。」
背を向けて扉へ向かう。
ドアノブに手をかけ捻ったところで動きを止め
「何企んでるか知らないけど、あいつにはもう手を出すな。」
「貴様と鞍馬家の雇用関係は破綻しているのに指図される筋合いはない。」
「・・・忘れるな、僕がその気になればお前ら全員殺すことなんて簡単なんだ。」
そのまま扉を開けて外に出る。まだ日も高いお昼過ぎ、初めて出会った時と同じ秋という季節の中でAのことを最悪の形で思い出した。あの時感じた形容しがたい感情の正体が分からないほど僕はもう子供じゃない。そしてその感情は変化し続けていまでもまた新たに形容しがたい感情になってしまっている。会いたいだとか、声を聴きたいだとか、他人のものになるなら殺してしまいたいだとか、そういうことではなくただAのことになると無力になってしまう自分を常に呪っている。愛ほど歪んだ呪いはないといったけどまさか自分を呪うとは思わなかった。