君と僕で愛。【Fischer's】 (ページ4)

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第3話・・・ページ4

Aには1番信頼出来る親友がいた。どんな時にも冷静且つ、感情を読み取れて動ける人。賢くてつい頼ってしまうような包容力のある男だった。
「なに？相談って」
モトキだ。
マサイやシルクと共にFischer'sとして動画撮影に取り組んでいて、Aは密かに相談事をしていた。他愛もない話から本題に入る。
「美琴さん、シルクとちゃんと向き合ってくれないの」
ここは路地裏にある常連だけが集う喫茶店。老婦人が経営していて、非常に落ち着いた雰囲気のある店だ。コーヒーをすするモトキ。その様子を真面目に見つめるA。
「･･･連絡とってないんだね」
Aは神妙な面持ちで頷いた。それに何か言いたげなモトキであったが、今はその時ではないと自負する。
「もし･･･」
しかし、Aかそれを話し出した。
「もし･･･？」
モトキは身を乗り出して聞きに入る。その振動で机の上のコーヒーが零れた。
「あ･･･」
「すみません、定員さん」
「はい･･･！あ、今お拭き致しますね！」
それから色々と時間が経つにつれてその話題は消え去っていった。モトキはその話題をもう一度だそうとしたが、やめた。今話せばAのしてきたことが全て無駄になる。
「また今度会おう」
Aが喫茶店を出てから言った。モトキは少しの間を空けてから頷いた。
「また連絡して」
それから2人はその場で別れた。Aはマサイの家に向かう。Aの姿が見えなくなるまで後ろ姿を眺める。そして。

モトキは、美琴の墓へと向かった。

草の匂いが蔓延する墓地。添えられた花は枯れかけていたり、みずみずしく凛としていたり。モトキは新しい花を添える。そしてそばにしゃがんで十字架の白い墓石を撫で、語りかけた。
「･･･美琴さん。僕はどうすればいいですか」
悲しく、苦しい。そんな目を向けることが出来るのはもう既に亡くなってしまって返事を貰うことが出来ない美琴だった。美琴はモトキの大学の先輩で、モトキの紹介でシルクと美琴は付き合いを始めたのだ。
「Aは上手くやってます」
でも、だいぶ追い詰められてるかもしれない。そんな不安は心の中で呟いた。
「現実ってなんなんでしょう」
周りにあるのは背の低い草と所々に咲いたレンゲソウ。
人は安らぎを求めた。それが1番人間らしくて、無理にでも誇れた。使命に変わる前に幸せになる。それがAの考えだった。

「僕は･･･」

言いかけてやはり、やめた。
まだその時ではない。
その時が来るのはいつか分からない。