第1話・・・ ページ2
「・・・A」
小さく呼ぶ声が、寝室の空気を少し震わす。
「なに?」
毛布にくるまるAはマサイに背を向けながら返事をした。
「好き」
どこか不安そうなその声の意思は、Aには届かない。ただかわりに明るい返事が一瞬でもマサイの心を潤した。
「私も」
冷静な瞳を向けられる。この瞳に何年も恋をしてきた。美しいAの体のラインをなぞる。ぴくりと反応したくびれに、マサイの長い腕が巻き付いた。
「今日は友達の家に泊まるから帰らないかも」マサイが怪訝そうな顔をする。
「男じゃないよね」
また、ぎゅっと抱きしめた。こころが離れないいように。
「当たり前でしょ」
ふふ、と妖艶に笑うとそのまま毛布に沈み寝てしまった。不安で仕方ないマサイはAの上にまたがった。
「どうしたの」
「もっかいしよ」
愛を確かめたくて。傷つくのが怖いから現実を受け止められなかった。その日にホテルから、シルクとAが一緒に出てくる所を目撃した友人がマサイに報告したのだった。
「・・・・・・」
隣でスマートフォンに釘付けの彼女に問いただし、別れることは至って簡単であった。しかしマサイにはそれが出来なかった。
「・・・どうしたの?さっきからじっと私のことを
見て」
可笑しい、というふうに健気に笑った。どうしても言えない。7年も積み重ねてきた日々が台無しになるような気がしてならなかった。
「なんでもない」
俯きがちに答えたのがそんな情けない理由で、だなんて誰にも言えないし言うこともないだろ
う。
それくらい、溺れているのだった。
今日の撮影はマサイの家で行われた。Aはいつも通り別室に移動する。動画内に映り込むことのないように撮影中は静かに寝ているらしい。職業は看護師のAは夜勤が多く疲れが溜まっている。その部屋は誰でも行き来できてAが無防備な姿で寝る脇を通るメンバーも多かった。マサイは毎回ヒヤヒヤしていたがだんだんと慣れてしまいそのまま撮影を続けていた。
撮影が終わるとマサイは真っ先にAの眠っている部屋に向かった。
「A。撮影終わったよ」
低い声に反応して、寝返りをうつ。ちらりと見えた白い肌。マサイはそれを眺めながら息を飲んだ。
「Aーマサイー飯食うか?」
扉が開き入ってきたのはシルクだった。あの写真がフラッシュバックして暫くぼーっとしていた。その様子を可笑しそうに笑って指さすシルク。
「なにぼーっとしてんだよ」
いつも通りの笑顔だった。
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のんのん - 作者様お願いします。早く更新してください! (2019年5月13日 3時) (レス) id: 37d0aedc72 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もちもち | 作成日時:2018年4月21日 23時