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そっと体を離して微笑む。



「送ってくれてありがとう、蘭くん。またね!!」



手を振って階段を上がるAが部屋に入るまで
見送るとマンションに帰っていく。



夜出勤すると始まったイベント効果でお客さんが
どんどん集まり、あっという間に満席となった。

いつもよりも忙しい店内をスタッフが走り回り
加倉井と奥のテーブルでその様子を眺めていた。

フォローが必要な際はそれとなく手を回して、
なるべく表立って顔を出さないように。

加倉井のお眼鏡に叶わなかった輩も
残念ながらいたようで、若い衆によって
店外に放り出され出禁を言い渡されていた。

朝まで続いた盛り上がりにご満悦といった
様子で加倉井はAの肩を叩く。



「出足から上々だな。」


「想像以上でしたね!!
 加倉井さんの宣伝効果がかなり出てました。」


「Aが店の質を前より上げてくれたからな。」



シャンパンを注いだグラスで乾杯する。



「まだ初日だから飛ばし過ぎもよくねぇな。
 これ飲んだら帰るか。」


「これから毎日会えますもんね。」


「ははっ…そうだな。」



Aの言葉にほんの少し、
寂しげな色を滲ませて笑った。

その意味すら察して微笑むと
そっと腕に手を添える。



「働く場所が変わったとしても
 わたしたちの関係性は何も変わりませんよ。

 そうでしょ??」



弾かれたように目を合わせた加倉井は
その笑みを見て眦を下げた。



「簡単に切れる縁じゃないんですよ、わたしたち。

 家族みたいに温かい人…そんな人が
 いてくれたらって、ずっと思ってました。
 でも…もう出会えていたんです。

 長い間…見守ってくれて、
 ありがとうございます。」


「…まだ俺を泣かせんのは早ぇだろ、A。」


「言いたいと思った時に言わないと。

 そんなことで後悔するのは勿体ないって
 教えてくれたのは加倉井さんですよ。」


「そうだったな…」



もう1度グラスを合わせて
シャンパンを飲み干した。

先に帰っていく加倉井を見送り
そっとその大きな背中に呟く。



「…いつかちゃんと呼ばせてね、父さん。」



最初は思いもしなかった。

何でこんなによくしてくれるんだろう、
って違和感だけがずっとあって…

わたしが借金を返すと決めた時だって
肩代わりしてくれようとしたのも知ってる。

それでも、わたしの意思を尊重してくれた。

だからわたしはあなたが見ていてくれる
ここでちゃんとやり遂げるだって。

あの日の出会いは偶然。




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作者名:YUMi | 作成日時:2023年12月12日 16時

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