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「…灰谷。」


「"クン"くらいつけてくんね??
 これでもお前よりお兄チャンなんだわ。」


「ははっ、悪ぃ。
 怒んないでよ、灰谷くん。」



挑発するように言った蘭はあっさりと
謝罪する万次郎に毒気を抜かれた。



「1人??弟は一緒じゃねぇんだ。」


「…別にいつも一緒にいるわけじゃねぇよ。」


「そっか。
 俺も人送りに来ただけでもう帰るし。」



まるで友だちと話すように笑みを浮かべたままの
万次郎にその顔から表情がストンと抜け落ちる。



「…マジでお前ら、目障りだな。
 兄弟揃ってAチャンの周りウロウロして。」



夜の静けさで、呟いた
小さな声もしっかり耳に届く。

何も読み取れない能面のような顔。

そんな表情とは裏腹に激しい感情を
宿して小さく揺れる目をジッと見つめる。



…ここで灰谷と会うのは予想外だったな。

何とかしてやりてぇけど自分たちで乗り越えねぇ
限り、2人にとっていい結果になるとは思えない。

前の2人はここですれ違ったまま、歳を重ねて…

そして、Aは殺された。



目を閉じた万次郎の瞼の裏には腹から血を流して
苦しそうに息をしながらもやさしく笑うAと

その体を抱き締めて甘く蕩けた目で
愛を囁く蘭の姿が鮮明に蘇る。



「俺らのことはどう思っててもいいけど
 Aは違うだろ。

 芯は強いけどケンカも出来ない
 普通の女だからさ、守ってやってよ。

 他のヤツじゃ気に入らねぇなら灰谷くんが
 Aのそばにいてやるしかねぇじゃん。」



穏やかだが懇願するように紡がれた言葉は
思いの外蘭の胸に素直に響いた。



「…お前に言われるまでもねぇよ、マイキー。
 俺はあの人のそばにいる。」



そっと大事に持っていた1輪の向日葵に
唇を寄せて薄っすら笑みを浮かべる。



「…そっか。」



頷いて蘭の横をすり抜けた
万次郎は柔らかく表情を緩めた。



「…八つ当たりして悪かったな。」


「俺は全然気にしてねぇって!!」



そっと背中に掛けられた小さな声に
ニカッと笑うと、歩き出した蘭を見送る。



出会ってから何度も足を運んだアパート。

ドアの前に立った蘭はほんの少し
躊躇うように伸ばした指でインターホンを押す。

パタパタと足音が近付いて
すぐガチャとカギの開く音がした。



「はーい。…蘭くん。」


「…ダメじゃん、Aチャン。
 確認してから開けないと危ねぇって前から…」



ぎこちなく笑みを浮かべて蘭が
そう言い切る前に、体に軽い衝撃を感じた。




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作者名:YUMi | 作成日時:2023年12月12日 16時

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