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「ありがとな、A。」
「気を付けろよ??」
「Aちゃん、またね!!」
玄関で見送られて佐野家を後にした。
隣を歩く万次郎の横顔を見つめて、笑みを溢す。
「ごめんね??」
「んー??」
「せっかくゆっくりしてたのに
アパートまで送ってもらって。」
「気にすんなって。
Aのメシうまくて
たくさん食べたから、少し運動ー。」
「やさしいなぁ、万次郎くんは。」
「ははっ、Aの方がずっとやさしいじゃん。」
「…ねぇ万次郎くん、手つないでくれる??」
「いーぜ!!」
ぎゅっと握るその手は大きく温かい。
隣に並んだ万次郎はもうすぐ
Aの身長を追い越すだろう。
「Aはさ、今しあわせ??」
「ふふっ、何それ。」
「お前はいつもそうやって笑ってるから
しんどい時にわかってやれねぇんだもん。」
「そりゃそうだよ。
しあわせじゃなかったことなんてないもん。」
穏やかにそう言うAの顔を覗き込む。
「ホント??」
「わたしのそばには
いつもみんながいてくれたから。」
「…そっか。」
視線を前に向けて静かな夜道
ホッとするような温もりを感じながら進む。
まだ小さい頃、万次郎は1度だけ
Aが泣いているのを見たことがある。
真一郎に連れられて
Aのアパートを訪れた時のこと。
少し話すとその大きな目に涙の膜が掛かり
瞬きとともにポロポロと零れ落ちた。
酷く慌てた真一郎が宥めるように
その体を抱いてやったのを覚えている。
泣き止む気配のないAが苦しそうに見えて
今よりも小さな手でその手を握った。
「…あの時もこうして
手握ってくれたんだよね、万次郎くん。」
「…え??」
「覚えてないかなぁ??
わたしがまだ渋谷のアパートに住んでた時に
真ちゃんと来てくれたんだよね。」
「覚えてるよ。
…俺も今、その時のこと思い出してた。」
「ホントに??…何かうれしいなぁ。」
しみじみと呟く。
穏やかな空気を感じながら
アパートの前でそっと手を離す。
「送ってくれてありがとう、万次郎くん。
気を付けて帰ってね??」
「うん。またなー、A!!」
大きく手を振って帰って行く
万次郎の背中を見送ると部屋に入った。
ポッケに手を突っ込んで歩く
その前方にスラッとした人影が現れる。
「…俺に何か用??」
「こんなとこで何してんだぁ??マイキー。」
街灯に照らされる整った顔に
自分でも気付かないうちに口端が上がる。
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作者名：YUMi | 作成日時：2023年12月12日 16時
