『最愛』 ページ48
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俺はただ、兄に振り向いて欲しかっただけなんだ。
少し、一瞬、俺を見て、何か言葉が欲しかった。
力も、知識も、経験も、気持ちも、兄に叶わないのは十分承知していた。なのに・・・。
どうしても、俺は諦めきれなかった。
マリアを殺した兄を追いかける為に「白い箱」から抜け出し、目的も無くふらふらと放浪していたら、「アオギリの樹」に捕まった。始めは抵抗していたが、年下のアヤトくんに敵わなず泣く泣く「アオギリの樹」へ加入した。
それから少し楽だった。命令された通りにすれば俺を見てくれると分かった。少し命令通りにならなければ尻拭いをする為他の人は俺を見ない。
────なんだ、簡単な事じゃないか。
だったら兄に俺を見てもらえる為に何かしよう。命令はあの兄はしない、己の通りに行かなければ自ら行動する人だから。なら、俺は兄の道を塞ごう。
それは叶ったのかよく分からないが、結果は上々。見事に兄の視界に入る事に成功した。
兄弟喧嘩とは言えない、一方的だが俺は確かに喜びを感じた。兄に意識させる為に付けた狸の面は地面へと落ちていた。
(兄さん・・・アンタは・・・俺を・・・見てくれたか?)
首が宙を舞う間に笑う兄が視界に入った。
兄の前では「クソ兄貴」と呼んでしまうが、心の中では兄は神の様な存在だった。結局なぜマリアを殺したのかは分からずに終わり、俺の心の渇きは満たされなかった。
(俺は兄を越える気は無かった
ただ、見て欲しかっただけ
影乃哀として俺を見て欲しかった)
完全に意識が消える時、唇に温もりを感じた。
なぜか心が満たされた気がしたんだ。
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作者名:水無月 | 作成日時:2017年9月14日 3時