『異物』 ページ31
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四方八方真っ白な空間はいつかの“白い箱”を思い出す。
取り敢えず歩くが壁にぶつかる様子はなく、時間感覚が無いのでどれほど歩いたのかも分からない。
尾赫を出し、地面を叩こうとしたが尾赫が出ない･･･。
「不思議かい？赫子が出せない気分は」
後ろを振り向くと毎朝対面する顔がニヤリと笑う。
「これは不思議だ
俺を殺せば俺は死ぬのかな」
拳を振るうが簡単に受け止められた。本気で殺す気は無いのでコウでも受け止められる強さのつもりだ。
「まあ落ち着けよ
俺は俺に殺意は無い、いずれこの世界は消える
それまでお喋りしようぜ」
「いいぜ、つまんなかったら殺し合おうぜ」
「おぉ、こわ
現世の俺って殺意高過ぎね？」
おどけて見せる俺は少し違和感がある姿をしている。声は高く、輪郭は少し丸みがある。
「ちょいと失礼」
胸を鷲掴むと微妙に膨らみがあった。
「本当に俺にも容赦がねぇな」
「そりゃあ、楽しみが全てだからな
俺でも楽しみの材料なら俺は使うさ」
正面に居る俺は俺が女だと認識したからなのか少しだけ髪が伸び、女が好みそうな白黒の服へと変わった。
「流石俺だな、それが身を滅ぼさなきゃいいけどな」
「なんか知ってんのか？てか、お前って女？」
含み笑いをするだけで俺は答えない。肯定のつもりなのか髪と服だけではなく声も更に高くなった。
「そもそも俺たちは異物な存在だ」
「へぇ、それで？」
「異物は排除される、俺たちは排除される存在だ」
じとりと見つめる俺は俺へと指をさす。
「それでも、俺は楽しみを求めるか？」
何を言っているんだ。
そんなの･･･。
「たりめーじゃねーか」
正面の俺は瞬きを数回し、ニヤリと笑う。
「それでこそ俺だ」
互いの身体が紙屑の様に崩れ始める。
「逢えたのはこれで最後かもしれないし、また逢えるかもしれない」
互いに胸まで腕を上げ、掌を合わせる。
「何度も逢えちゃつまんねーもんな」
「俺たちは異物だ」
「なら死ぬまでかき回せばいい」
「この先辛い事が待っている」
「それも楽しみに変えればいい」
「大切な“盾”が滅ぶかもしれない」
「“来世”で逢えるかもしれねーぜ」
ふと正面の俺は穏やかに微笑んだ。
「だといいな」
俺たちは完全に紙屑になり、風に吹かれた。
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西 - この方角に福があるはずです
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作者名：水無月 | 作成日時：2017年9月14日 3時
