Fireworks. (ページ9)

今日:10 hit、昨日:29 hit、合計:26,237 hit

優しさと温もりページ9

・

雲1つない晴天。久しぶりの休日。そして、恋人である伊藤ちゃんとのデートの日。こんなにも素晴らしい条件が揃っているのにも関わらず、私は無事に体調を崩していた。私の会社は所謂ブラック企業と呼ばれるところで。ここ一ヶ月、ほぼ休みなく働いていたが今日だけは意地でも休みたくて、なんとか死ぬ気でもぎとった休日。

それなのに、今目の前に表示されている「38.8℃」という文字。

あまりにも自分が情けなくて死にたくなってくる。

恋人の伊藤ちゃんはランジャタイというコンビのお笑い芸人。本当なら会いたいけど風邪を移す訳にもいかない。それでも、正直に言ってしまえば伊藤ちゃんの事だからきっと家にくるだろう。ぐるぐる、ぐるぐる。頭の痛みに耐えながら考えた結果、仕事が入ってしまったと嘘をつこうという結果に至った。伊藤ちゃんに謝罪のメッセージを送り、そのまま薬を飲み、もう一度布団へと潜る。

本当ならば今頃、伊藤ちゃんと一緒にデートできていたのに。久しぶりに手を繋いだり、映画見に行ったりできたはずなのに。次の休みはいつとれるだろうか。次伊藤ちゃんに会えるのは、いつだろうか。そんな事をぼんやりと考えていれば薬の副作用のお陰か、眠気がきて。夢ならば覚めてくれ、そう思いながらそっと目を閉じた。

───────

がちゃがちゃ。

そんな物音で、目が覚める。………いつの間に眠っていたのだろうか。というより、この物音はなんだろうか。私は独り暮らしをしているし、ここには私以外いないはずだ。もしかして、泥棒…？なんて思いながら身体を起こせば、そこには会いたかった彼がいて。思わず、「え？」なんて声が漏れる。

私の台所にいる目の前の彼は私が起きたことに気が付いたのか、心配そうな表情をしながら私の元へと駆け付けてきた。

「Aちゃん、大丈夫？」
「……なんで」
「仕事入ったって言ってたから。そんなに働いてたら身体壊さないかなって心配で」

「だからご飯だけでも作っておこうかなと思って、きちゃった」

そう言って、へらりと笑う目の前の彼。
弱っていた今の私には、そんな彼の笑顔と言葉がとても心に染みて。じわり、目の前の景色がぼやける。「なんで体調崩していた事言ってくれなかったの」そう言って少し拗ねたような事を言っていた彼は、そんな私の姿を見て少し慌てていて。そんな伊藤ちゃんの姿を見ていたら、余計に涙が止まらなかった。

・

・→←・