その5 俺の人形 ページ5
「それ以上喋ったらあかんで」
山中君の鋭い眼差しが怖い。
抵抗したいけど、恐怖を感じているのか手に力が入れない。
「口を開けばあきらの事ばっかりやし、マジで嫉妬するわ」
『んー！んー！』
力の限り首を左右に降ると、山中君は右手を放してくれた。
『はあ、はあ……』
「苦しかった？ごめんな、A」
そう言うと、さっきまで口を塞いでいた右手で、私の頭を撫でた。
山中君も私の事を名前で呼んでる……？
「俺、あきらとAが楽しそう話してるの、見たくないねん。ずっと俺だけ見てて欲しい」
怖いと思っていたら、今度は寂しげな顔をする。
「俺だけ見て欲しいし、側にいて欲しいし、名前で呼んで欲しい。Aの事めっちゃ独占したい。これは命令や」
『命令……？』
「そう、ご主人様の命令。今日からAは、俺の人形やから」
……え？
どういう事？
なんでそうなるの？
『私は、山中君と友達になりたいだけなのに……！』
「あと、二人だけの時は"拓也"って呼んでな。山中君って呼んだらまた口塞ぐから」
『嘘でしょ？ねえ、やま……』
「今度は手やなくて、口で塞ぐかもしれへんよ」
『！！！』
口で口を塞ぐって…………、
それキスじゃん！！
『な……、え……、ええっ』
やばい、頭が混乱してきた。
態度も、表情も、声の雰囲気も、昨日の山中君と全然違う。
どっちが本当の山中君なの？
そんな事を考えていると、廊下から慌ただしい足音が聞こえてくる。
「たくやーー！しげ連れてきたで！！」
村上君が、背が高い細身の男子の手を握って教室に戻ってきた。
「あきら、お前走るなや……。あと手離せ……」
「A！こいつは隣のクラスのしげや！拓也の幼なじみやで！」
「……初めまして。鈴木重伸です」
『……えっと、水沢です』
「そういえばA、顔色悪いけど大丈夫か？」
『え？そ、そうかな……』
「まさか、拓也に変な事されたんか！？」
「馬鹿。するわけないやろ。なあ、水沢さん？」
『え？う、うん』
呼び方が名字に戻ってる……。
「でも、確かに顔色悪いな。水沢さん大丈夫？一緒にいたのに気付かなくてごめん」
優しく落ち着いた声で、私を気にかけてくれる山中君。
さっきとは全く違う、私が知っている山中君だ。
「水沢さん、帰ろうか」
『……はい』
彼の優しさが、恐怖にすら思えてしまう。
私は、山中君を信じていいのだろうか？
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作者名：きたの赤身 | 作成日時：2016年10月26日 14時
