その29 蘇る過去 ページ31
『……分からない』
「どうして？」
『あきら君は優しくて明るくて、大好きだけど何か違う気がして……』
手が、震えてきた。
密室になった教室で、二人きり。
それだけじゃない。
"あの日"を少し思い出してしまったからだ。
「水沢さん、大丈夫？」
山中君が気付いた。
「もしかして、怖い？」
『全然平気だよ！怖くなんか……』
「……水沢さん、俺に何か隠してない？」
私は固まってしまう。
やっぱり、山中君は鋭い。
『……私、閉じ込められるのこれで二回目なの』
「一回目は、もしかして前の学校？」
『……うん、確かあそこだった』
私は掃除用具が入ったロッカーを指差した。
『あそこに押し込められて、ずっと泣いてたな』
『私、人と話すのが苦手で、入学してからずっと幼なじみの男子と話してたの。そうしたら、クラスの女子たちが私に目を付けるようになって、嫌がらせするようになって……』
「その幼なじみは、何もせんかったのか？」
『最初はかばってくれてたけど、何故か急に無視するようになったの』
「…ひどい奴やな、その幼なじみ」
山中君の表情が、あの冷たい顔に戻っていく。
「じゃあ、俺の事も怖かったやろ？」
『……ちょっとだけ』
少し俯いて肩を落とす山中君。
『あ、でも今は怖くないよ？さっき山中君の寝顔見て思ったの』
「え？何それ。お、俺、変な事言うてなかった？」
山中君が動揺し始めた。
『ふふ、い、言ってないよ？』
「あ、言ったやろ！言うてや、A！」
『名前』
「……あ」
『私、山中君の人形じゃないのに、名前で呼んだね』
「……！！」
山中君の顔が赤くなっていく。
「やっぱり無理に決まってるやろ……！」
山中君は私を抱き寄せて言った。
「お前が俺から離れるなんて、考えたくもないわ……」
甘えたそうな、震える声で囁く山中君を、もう怖いとは思わない。
「お願いやから、あきらとは付き合わんといてえや……」
やっぱり知ってたんだ、あきら君に告白された事。
「A！」
扉が開く音と同時に、あきら君の声が聞こえた。
「大丈夫……！？」
あきら君が驚いている。
そりゃ、好きな子が自分とは別の男と抱き合ってるの見れば驚くよね。
『えっと、これは……』
「Aは何も言わなくてええよ。あきらに見せてあげようや」
いや何を言ってるんですかあなた！！
すっかりご主人様の山中君になってるし……。
「初めてやないから別にええやろ？お人形さんは静かにな」
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作者名：きたの赤身 | 作成日時：2016年10月26日 14時
