その21 まさかの ページ23
いつもの駅で待ち合わせ。
学校に行く訳でもなく、山中君に会う訳でもない。
なんて気が楽なのだろう。
「Aーー！！」
『村上君！……あれ？』
遠くから村上君が大きく手を振っている。
そして、猛ダッシュでこちらに来た。
『あの、麻衣ちゃんは？』
「麻衣は来ないで。もともと二人で出掛けようと思ってたしな」
『え！？』
「だって、ああ言わんと拓也がうるさいやろ？」
そうかもしれないけど……。
これじゃあ、デートじゃないですか……。
「そんな落ち込むなって！それとも、俺と一緒じゃ嫌？」
『ううん！村上君となら、全然平気だよ？』
「……また名字」
『あ、ごめん。つい……』
「今日は二人きりやから、名前で呼んで欲しいな」
私の目を真っ直ぐ見ながら村上君は言った。
「学校の近くのカフェでご飯食べよ！」
『うん』
「俺に付いて来て。多分こっちやから」
多分？
道、うろ覚えなの？
「俺は行った事ないんやけど、麻衣に聞いたらそこのオムライスがめっちゃ美味いみたいやから、Aと一緒に食べたいなっと思って」
『そうなんだ』
「大丈夫！道は麻衣に聞いてきたから！
」
なら、いいんだけど。
でも、暫く歩いても然辿り着かない。
「あれー？この辺の筈なんやけど」
村上君がスマホの地図とにらめっこしているのを横から覗いた。
『……あきら君、これ道逆じゃない？』
「え？あ、ほんまや！ありがとうA！」
『いや、全然……』
「あと、やっと名前で呼んでくれた」
『あ……』
あきら君の事、自然と名前で呼んでた。
「それでええんやで？俺、めっちゃ嬉しい」
微笑むあきら君の顔、太陽みたい。
暖かくて、優しい笑顔。
見てるこっちも幸せになる。
「これからも、ずっと名前で呼んでな？」
『うん』
「じゃあ、カフェ行こうか！」
『あきら君、そっちじゃないよ！』
「え？あ、間違えた！」
『もう！』
やっと、あきらって呼んでくれた。
好きな子に名前で呼ばれると、まるで特別扱いされてる気分になる。
拓也もこんな気分やったのかな？
でも、俺は拓也みたいな事はしない。
拓也には悪いけど、Aは俺が貰うからな。
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作者名：きたの赤身 | 作成日時：2016年10月26日 14時
