その20 命令なの？ ページ22
ライブハウスに戻ると、麻衣ちゃんが心配してくれた。
「ちょっと、あきら！勝手にAを連れ出すんじゃないわよ！」
「別にええやないか！」
「良くないわよ、この金髪バカ！！」
「はあ！？今、髪は関係ないやろ！！」
また、ケンカしてるし……。
「水沢さん」
山中君……。
「さっきはごめんね。ビックリしたやろ？」
何も言いたくない。
何も聞きたくない。
「……聞こえてる？」
お願いだから、その冷たい声で話しかけないで。
"あの日"を、思い出してしまうから。
「A！」
麻衣ちゃんとケンカを終えた村上君がこっちに駆け寄ってきた。
「明日、暇？」
『う、うん……』
「じゃあ、俺と一緒に出掛けようや！」
『え？』
「あ、二人だけやなくて麻衣も一緒やから」
でも、いいのかな？
思わず、山中君の顔を見てしまう。
「行ってきたら？」
……え、いいの？
「森田さんもおるし、女子同士で楽しんできたらええんちゃう？」
山中君、俺の事だけ考えろって言ってなかった？
「ふふっ、さっきからどうしたん？俺の事気にしてるみたいやけど」
いや、そりゃ気にするでしょう。
あなたのせいで散々な目に合ってるだよ？
「……恋人やないんやから、俺なんか気にせず行ってきたらええやん」
……そうだった。
私たちは、彼氏と彼女じゃない。
私たちは、主人と人形。
人形は、主人の命令に従わなければならない。
『私、行く』
「ほんまに！？じゃあ、あとでメールするわ！！」
村上君嬉しそうには跳び跳ねながら楽屋の方へ戻っていった。
悲しそうなあの顔と突き放すように言ったあの台詞。
山中君は、あの時どう思ったんだろう。
あれも、ご主人の命令なの？
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作者名：きたの赤身 | 作成日時：2016年10月26日 14時
