Agapanthus (ページ29)

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･A

なんで、出ないの。

｢……。｣

なんで、こんなに必死になってんだ、僕は。

どうしても会いたいなんて普通に考えてありえないでしょ。

心を落ち着かせようとしてもチラつくあの顔。

ソファに蹲っていたけどまた立って、もう一度コールをかけようとしたその時。

受話器をとるまえに、電話の音が部屋に響いた。

僕は馬鹿みたいに焦ってすぐにとって耳元にあてた。

何故か相手は絶対にあの人だと思った。

｢っ、もしもし、｣

JN『ふふ、やっぱりAだね。』

ぶわっと頬が熱くなって、ビリビリと腰に響くあの人の声。

ソクジンさんの、声。

JN『ごめんねなかなか取れなくて。練習中だったからさ。』

｢……いえ、｣

JN『この番号ってもしかして家の固定機？』

｢はい、｣

JN『え、スマホ持ってないの？』

｢……はい。｣

意味の無い会話、でもなんだか胸がキュンとしてドキドキする。

JN『ヒョンが買ってあげるね。』

｢え？｣

JN『僕らとだけ、やりとりのできるスマホ。』

｢……あ、｣

JN『いらない？』

いつでも、話せる？

｢……ほし、い。｣

JN『うん、今度買ってあげるね。』

｢……。｣

ちがう、いま、こんな話いらない。

はやく、会いに来てよ、

JN『どうして電話くれたの？』

｢……そ、れは…｣

JN『もしかして……』

｢……、｣

JN『寂しくなっちゃった？』

寂しい……？

JN『それとも何かいいことあった？』

いいこと、？

JN『いつでも連絡してくれてもいいんだからね。』

いつでも、いいの？

｢……あいたい、｣

JN｢……そっか。｣

きっと忙しいから、会えないだろうけど。

熱くて苦しいのに逆効果だってわかってるけど、もらった香水の蓋をあけて、毛布に向かって吹き掛ける。

｢……っ、｣

やっぱり、この匂いはいい匂いだ。

ぎゅうっと抱いて顔をうずめる。

JN『A？今の音は何？』

｢ん……こうすい、｣

JN『……なかなか可愛いことしてくれるね。A、鍵開けて。家の前にいるから。』

｢え……？｣

毛布を抱きしめたまま、玄関に向かう。

そんな、どうして……？

鍵を開けて扉を開けた。

JN｢こんばんは、A。｣

｢……っ！！｣

瞳を見た瞬間、比じゃないくらい顔が火照って、背筋がゾクゾクする。

毛布の匂いも鼻を通り抜けて全身を麻痺させた。

JN｢……その目は反則。｣

ソクジンさんの長い腕が目の横を横切る。

ギュッと強く抱きしめられて、体を預けた。