Agapanthus (ページ27)

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･A

分かってる。

これは、香水の匂い、しかも僕がCMをしてる。

s｢いやあ、これからもよろしくお願いします！｣

手を握ることの出来る距離まで近くにいて、一層匂いが濃くなった。

部屋にいる時には気が付かなかったけど、この人の匂いは濃い。

s｢……？Aくん？｣

大人たちのきつい香水の匂いには慣れたと思っていた。

だけど、どうして過去の匂いが苦手だ。

前に嗅いだ時はなんとも思わなかったのに。

mn｢……A？｣

繋がれた手に汗が出てくる。

慌てて離すと、バランスを崩してすぐ後ろにあった椅子に座り込んでしまった。

ドクン、と波打つ胸。

あれ、

どうしてこんなに……ドキドキするの。

s｢……A、く…｣

mn｢A、大丈夫！？｣

ヌナの冷たい手が頬にあたる。

額にも、首にも。

｢っ、、｣

mn｢すごい熱……！｣

a｢体調が優れないですか？｣

mn｢すみません、本日はここで帰らせていただいてもいいです……よね？｣

a｢はい！それはもう、───────｣

周りの人の話も全然聞こえなくて、ただヌナに手を引かれて支えられながら会議室を出る。

触れられたところがどうしてかくすぐったい。

｢ん……ヌナ、くすぐったい、｣

mn｢とにかく運ぶよ。乗って！｣

｢へ、？｣

半ば強引に。

僕より小さいヌナが僕を背負った。

うそでしょ、

｢ヌナ、あるけるよ、｣

mn｢病人は帰って寝る！薬あるでしょ。｣

｢うん、｣

mn｢もう、まったく。どうして言わなかったの……｣

ごめん、ヌナ。

薬がどうとか、熱だとか、なんだか今はそれら全部がどうでも良くて……

頭の中に浮かぶのは、財布の中のメモ。

真っ直ぐ家に向かっている車内。

mn｢横になってな。｣

ヌナの声に空返事して、僕は財布の中のメモを眺める。

なんで。

どうして、

電話なんかしたいなんて、思うの。

会いたいなんて、思ってしまうの。

mn｢部屋の前まで送るね。｣

｢ううん、大丈夫……｣

mn｢いや、見届けさせて。｣

ヌナが珍しく部屋の前までいる。

mn｢簡単なご飯作ろうか？｣

｢大丈夫。｣

mn｢コンビニで買ってくるけど……｣

｢ほんとに、大丈夫……｣

ヌナ、ごめん、ほんとに、はやくあいたいの、

｢ありがと、ヌナ。｣

バタン、と扉を閉めてヘナヘナと座り込む。

手も頬も全身が火照って、ちょっと苦しい。

だけど胸がきゅんとする。

はやく、電話……