・ ページ9
.
『ｺﾞﾎｯ…ｺﾞﾎｯ…ｯﾊ、やば…』
「いけるいける。あとちょっと」
『ﾊｯ…ﾊｧｯ､ﾊｧｯ…ありがと…』
床に膝と手をついて、息を整える。
私の捌ける先で見守ってくれていた林くんが私の背中をさすってくれる。これもいつものこと。
振り返ればゆり組の一騎打ちが終わるところだった。
グッと模擬刀を握り締めて駆け出した。
一人一人にスポットが当たり、最後の決めに入る。
佐久間と涼太、亮平、ふっかと翔太の並びの前で、黒と白1人ずつを相手に刀を振るう。
私の最後は両方に斬られる場面なんだ。
音が止まり、掲げていた刀を下ろす。
みんなに合わせて何とか袖の位置まで移動するけど、しばらく動けそうになかった。
ab「大丈夫？一回座るよ、」
sk「刀もらう、ほら、力抜いて」
『ﾊｧｯ…ﾊｧｯ…ごめ…っ、ｯﾊ…ﾊｧｯ…』
みんなも今終わったばっかで疲れてるはずなのに、自分だけこんなになって、申し訳なくて、悔しくて。
でもそんなこと口に出してもどうしようもないから。
力の入らない足を何とか奮い立たせて、立ち上がる。
『ﾊｧｯ…ふぅ…っ、だいじょぶ…大丈夫だから…』
sk「大丈夫に見えねえから言ってんだよ」
『大丈夫だってば、』
sk「………」
『っ…ごめん、』
佐久間の冷ややかな目に耐えられなくて俯いた。背中に乗る手は、亮平のかな。
その腕を取って押し返せば、少し悲しそうな、私を呼ぶ声。
顔を上げないまま、「ごめんちょっと休む…」と告げて飲み物を片手に稽古場を出た。
ru「……あれ、どうしたの」
『…ちょっと休憩。ラウちゃんは、……もう帰るのか」
ru「うん‥」
『辛いよね、自分だけ違うのって』
ru「……うん、」
つい先日、ラウちゃんと目黒にも身体の事情を話した。その日から何となく、ラウちゃんとは距離が近づいた気がする。
似たような境遇というか、気持ちがあるからさ。
『でもラウちゃんはすごいね。全然ついていけてるもん』
ru「ゆきちゃんもすごいじゃん」
『……ありがとう』
ru「もっともっと頑張らないと」
『そうだね、頑張ろう』
到着したエレベーターに乗り込むラウールを見送る。
すっかり落ち着いた呼吸をもう一度ゆっくりと一つ整えて、私は稽古場に向かって歩き出した。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2854人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
り(プロフ) - 初めまして。いつも楽しく作品を読ませていただいています！おれんじさんの「当たり前を褒められるようになりたい」って言葉とても響きました。私は自己肯定感が低いのでとてもその言葉に救われました！頑張りたいと思います色々！ (2020年9月1日 0時) (
レス) id: 064656c818 (このIDを非表示/違反報告)
おれんじ(プロフ) - JUSTerさん» コメントありがとうございます！一番だなんて恐れ多いですが…嬉しいです(o^^o) これからもご愛読よろしくお願いします！ (2020年8月9日 20時) (レス) id: f2384aad00 (このIDを非表示/違反報告)
おれんじ(プロフ) - 美紀さん» お返事遅れてしまってすみません。いつもコメントありがとうございます。美紀さんも、おからだに気をつけてお過ごしください(^^) (2020年8月9日 20時) (レス) id: f2384aad00 (このIDを非表示/違反報告)
JUSTer(プロフ) - 紅一点ものの中でこのお話が一番好きです！！！次楽しみにしてます！頑張ってください〜〜！(*´`*) (2020年8月8日 17時) (レス) id: a497860194 (このIDを非表示/違反報告)
美紀 - 移行おめでとです最高ですコロナウイルスと熱中症に気をつけてくださいね (2020年7月30日 20時) (レス) id: 8204dae0fb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：おれんじ
| 作成日時：2020年7月30日 19時
