63、赤 ページ16
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静かに開いた扉に振り返ると、心配そうに眉を下げたラウールがいて。
部屋に入るように促せば、その後ろには康二もいた。
どう…?と小さく聞いてくるラウールに、俺は何も言わず、首を振って答えた。
ru「そっか…」
dt「……びっくりさせてごめんね、って」
ru「俺、…何もできなかった。…守るって、決めたのに」
俺とふっかが対峙している楽屋に、「Aが苦しそう」とラウールが飛び込んできたのは15分前のこと。
焦るラウールに代わって俺が様子を見に行き、
病気のめまい発作で蹲るAに薬を飲ませ、今は暗く静かな部屋で休ませているところだった。
kj「……これ、」
dt「あぁ、不安が和らぐからって、今でも大事に持ち歩いてるみたいだよ」
kj「……だって、…だってこれ、しろちゃんが、」
混乱する康二を見て、あぁそうか…と気付く。
ラウールと自分以外は事の真相を聞いていない。
だから、この一年の事件は全て彼女の仕業だと思っている。
……康二と彼女は、まだすれ違ったままだ。
kj「俺、しろちゃんに嫌われててもええねん、…いやあかんけど、…でもええねん、…ただ、俺はしろちゃんが無理して笑うところは見たくないんよ、」
ポロポロと気持ちを吐きこぼす康二の声は震えていて、その言葉に嘘がないことが伝わってきた。
俺たちから事の真相を話すことはできる。
だけど、自分の気持ちをひた隠しにして、自分すらも誤魔化そうとするAを見てきて、
俺らから話す、という選択肢はあってないようなものだった。
そんなことを考えて静まりかえる部屋では、モゾモゾと布擦れの音がやけに大きく聞こえた。
『……りょうた、?』
dt「起きた?気分はどう?」
『…眩暈は楽になった、と思う』
そういって身体を起こしたA。
今日の発作は軽かったみたいでよかった。
この場に康二がいることは予想外だったのか、
その姿を目にして、驚いたように名前を呼んだ。
kj「なあしろちゃん…」
『…ん?どうしたんよ』
kj「しろちゃん、無理して笑わんで? 俺な、最近、しろちゃんが何考えてるか分からへんねん…でも、今のしろちゃんの笑顔見てるんは辛いんよ…やから、」
康二の真剣な懇願に何度か瞬きをしたAは、一拍置いて、ふんわりと微笑む。
――だって笑ってないと、泣いちゃうんだもん。
俺にはその言葉が、泣くことが嫌いなAのSOSに聞こえた。
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むち(プロフ) - 大号泣しました。。すっごく苦しくて感情移入しちゃって。素敵な作品でした。ありがとうございました (2021年4月27日 1時) (レス) id: fc08b9a7cc (このIDを非表示/違反報告)
テクノに恋した天気予報士 - うらつくの作品でこんなにも泣いた作品は初めてです、もうほんとに明日学校あるのに目が腫れるってくらい泣きました、本当に面白かったです。素敵な作品ありがとうございました (2020年7月28日 23時) (レス) id: f20013ee9d (このIDを非表示/違反報告)
えびまろ(プロフ) - 初めまして。この作品を読んでいると、信じてもらえず本当の気持ちも言えないもどかしさ、苦しみに気づいて支えてくれる優しさ、気づけなかったメンバーの後悔など様々な感情で胸がいっぱいになり、終始涙でした。素敵な作品をありがとうございました。 (2020年7月15日 0時) (レス) id: 79d7d19d55 (このIDを非表示/違反報告)
う(プロフ) - 初めまして、1から全て1気に読みました、ずっと涙が止まらなくて苦しくなるほどでした、こんなに感情移入したのは久々でした、素敵な作品をありがとうございました、最後に幸せになれて良かったです、お疲れ様でした (2020年7月10日 0時) (レス) id: ab44f752c1 (このIDを非表示/違反報告)
renyaxxx8(プロフ) - めちゃくちゃ泣きました。号泣しました!!素敵な作品ありがとうございます! (2020年6月29日 4時) (レス) id: 24c62dd776 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おれんじ | 作成日時:2020年5月8日 22時