お前じゃないとダメっていって【名探偵コナン】

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菫が私の横に座った。

「なに、お姉ちゃん」
「用がなければ妹の部屋に来ちゃいけないの？」
「……私バイトで疲れてるんだってば、もう寝かせてよ」
「ご飯食べてないでしょ？」
「いらない、お腹すいてない」
「昨日もそう言って食べなかったじゃない！ちゃんと食べないと、倒れちゃうよ」
「大丈夫だから。2日夜ご飯食べなかったくらいで倒れるほど軟弱じゃない」
「そういう問題じゃないでしょ！ほらおいで！」
「いいってば！」

いつまでたっても平行線な会話に腹が立つ。
引かれた手を思わず振り払ったら、菫が驚いた顔をした。

純粋に私を心配してくれているのはわかってる。菫は、姉は、いい子で優しいから。

「……ごめん、でもほんとに疲れたの、もう眠いから、寝たいの」
「そっか、ごめんね、無理矢理」
「謝んなくていいよ、心配してくれてありがとう。でももういいから」
「……うん、わかった。よく休んで」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」

最後に菫が微笑みながら私の頭を撫でて、部屋を出ていった。
ああ、やっぱり、私とは違って心優しい。

……私とは違って？

そっか、そういうことか。
またね、と言って笑った毛利さんに腹が立ったのは、姉に似ていたからだ。無意識のうちに重ねていた。

そっくりだ。今の笑った顔。
顔立ちが似てるとかじゃなくて、雰囲気が。

笑いかけるだけで、泣いている人を慰め怒っている人を窘める。
そんな、優しい、綺麗な笑顔。

営業スマイルしかできない私とは違う。

正直苦手だ。
ああいう、姉のような、優しさと純粋さで成り立っているような人は。
いちいち卑屈になってしまう。
自分が面倒くさいタイプだという自覚はある。

だからみんな、私なんかより姉を選ぶんだろうな。
私を姉に見立てて接してきた初恋の人も、姉に近づくために私とは付き合った元カレも。

私なんか、って卑下する面倒な私じゃなくて、可愛い菫を。みんな、当たり前のように選ぶ。

自分が誰かの一番に、なんて夢のまた夢なのだと思う。だって菫には勝てない。

面倒な私も、余計なこと言った高山さんも、しつこい工藤くんも、皆、馬鹿だ。
私が恋愛なんて、できっこない。

リビングから、また楽しそうな声が聞こえてきた。思わずち、と舌打ちが零れる。
さっさと眠ってしまいたくて、目を閉じる。

………顔が笑ってるけど。

高山さんの声が、嫌に耳の奥に残っていた。
だから、そんなんじゃあ、ないんだってば。

誰に言い聞かせ訳でもなく、呟いた。

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