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「久我に聞いた」
「何を?」
「お前が家を出て、千葉の大学に通うって」
「ああ……」

勝手に言いやがって。
私が口止めをしなかったのも悪いけど。
誰にも、特に新一くんには知られずにひっそりとサヨナラしたかった。

「言わなくてごめん、そうだよ、一人暮らしのためにバイトしてたの」
「なるほど」
「家を出るためだけに千葉の医大を選んだわけじゃないよ、そんな不純な動機じゃなくて」
「じゃなくて?」
「医療界の中で有名な先生が付属の大学病院にいて、大学でも定期的に講義してくれるの」
「へえ、なるほどなぁ」
「だからその大学を選んだし、丁度いいから一人暮らしすることにしたの」
「家からじゃ通えない距離なのか?」
「そんなことはないけど……一人暮らしがしたい」
「ふぅん……」

新一くんが怪訝そうに呟いた。
突然、ハッとして、今はその話じゃなくて、と慌てて言った。

「じゃあ、お前とはもう会えない?」
「まあ、会おうとしなければ会えないんじゃない」
「……思わない?」
「え?」
「オレとは、もう会おうとは、思わないか?」
「……」

どうしてそんなに寂しそうな顔をするのだろう。

「……何で?会いたいの?」
「ああ」

はっきり肯定された。
いつもの新一くんじゃないことに、今更気づいた。

「というか、オレは、卒業してもお前と会えると思ってた」
「……え」
「高校でお別れだなんて思ってなかったんだよ、何でだろうな」
「……何で?」
「聞きてぇの?」
「え?そこで焦らすの?」
「……ふ、はは、冗談だよ」

無邪気に笑う新一くんに、思わずドキッとした。
ときめいている場合じゃないでしょう、私。
新一くんが優しい瞳で私を見下ろした。

「……お前がオレに、作り笑顔しか見せなくて寂しかった」
「……え?」
「話し方も、最初の頃と違って愛想が良かったし」
「……普段が無愛想で悪かったわね」
「おめー、さっき自分で無愛想だって言ってたろ」
「そうだけど……」
「って、違う、そうじゃなくて。とにかくオレはお前の、ある意味普通の態度が気に食わなかった」
「ある意味普通?」
「お前の中の、その他大勢、にいるのがすっげ嫌ったんだよ」
「その他大勢……」

言いたいことはわかる。
つまり、学校での私の、猫を被った、いい子ちゃんの私が嫌なのだろう。

でも、だから、なんだと言うのだろう。
その他大勢だとしても、新一くんにはなんの問題もないとだろうに。

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未設定 - 世界一好きになれない夢主。胸糞悪い (2023年3月5日 17時) (レス) @page48 id: 438400fe3d (このIDを非表示/違反報告)
新一君しょうこ(プロフ) - はじめまして(新一君が大好きで名前申し訳ございません)前作のお話もとても大好きで、ありがとうございます胸にぐっときて涙が止まらず新一くんとこれまで悲しい思いをされた夢主様の未来お祈りしてやまないですこれからも応援させて頂いていますありがとうございます (2020年7月6日 13時) (レス) id: 84fa2ad3c6 (このIDを非表示/違反報告)
さち - すごくおもしろいです。後日談も気になりますが、このままでも十分ですよね。次回作も楽しみです。よろしくお願いします。 (2020年7月6日 13時) (レス) id: 45c5a17459 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ああもう!お疲れ様でした!最高でした。途中途中で涙ぐみながらハッピーエンドで幸せいっぱい!夢主ちゃん良かったああ (2020年7月5日 19時) (レス) id: a1083db659 (このIDを非表示/違反報告)
オトハ - めっちゃ好きです。これからも無理せずに頑張ってください! なぜ高評価は一回しか押せないのだろうか、 (2020年6月15日 17時) (レス) id: ef611ec012 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みやの | 作成日時:2019年12月15日 17時

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