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43 [side S] ページ44

「あ」
「……あ?」

冬休みが終わって、数少ない登校日のある日。
階段の踊り場で、顔見知りのやつに出くわして、つい声を出してしまった。
立ち止まったら、相手も立ち止まった。

「……あ、ええと、どうも」
「……どうも?」

何がしたいんだオレ。
目の前の男、久我琴春はオレより少し背が高いらしく、視線が下を向いてオレを捉えた。

流れた沈黙。
不思議そうな顔をする久我にとりあえず何が言わなくてはと思い、何も考えず口を開く。

「Aは元気か?」
「元気だけど」

なんでよりにもよってAの話題なんだよ、オレ。
久我がますます不思議そうに、きょとんと首を傾げた。

「あー、そっか、ならいい」
「何で?」
「なんで?ええと、気になったから?」
「ふーん。本人に聞けばいいのに」

おっしゃる通りだ。

「呼び止めて悪い、もう……」
「あ、そうだ、Aの通う大学のことは知ってる?」
「大学?」

Aは頭がいいし、成績上位者は大抵東都大学に通うから、Aもそうなんだと勝手に思っていた。
もしかして、違うのだろうか。

「いや……何も」
「ああそう、あいつ、何も言わないつもりなのか?」
「何も、って……東都大じゃねーのか?」
「違うよ、そもそも都内ですらない」
「……は?」

思わず耳を疑った。
東都大じゃなければ、都内でもない。
つまり県外。
そんな話、一度も聞かなかった。

「じゃあ、どこの大学だ?」
「千葉の医大」
「……医大?千葉?」
「そう、理由はー……俺が勝手に言っていいのかわかんないから、本人に聞いて」
「待て、一つだけ……自宅から通うんだよな?」
「は?それじゃあ県外の大学選んだ意味ねーじゃん」
「え……」

自宅通いでは、千葉の大学にした意味がない?
どういうことだろう、疑問に思って、すぐにまさか、と思う。

Aは姉との関係に辟易していた。
姉妹間の軋轢なんてオレには分からないが、まさか、家を出たいと思うほどうんざりしていたのだろうか。
だいぶ前、あそこまで取り乱したAの姿を思い出して、ありえないことではないな、と思った。

「ねえ、お願いがあんだけど」

久我が呟いた。

「オレに?」
「そう。工藤さ、Aのこと、どうにかしてやってよ」
「どうにかって?」
「工藤が幸せにしてやることはできない?」
「幸せ?それなら久我の方が適任じゃ」
「俺?何でそう思った?」
「だって、お前らお互い想い合ってるだろ」

周りが嫉妬するくらい、と言う言葉は飲み込んだ。

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未設定 - 世界一好きになれない夢主。胸糞悪い (2023年3月5日 17時) (レス) @page48 id: 438400fe3d (このIDを非表示/違反報告)
新一君しょうこ(プロフ) - はじめまして(新一君が大好きで名前申し訳ございません)前作のお話もとても大好きで、ありがとうございます胸にぐっときて涙が止まらず新一くんとこれまで悲しい思いをされた夢主様の未来お祈りしてやまないですこれからも応援させて頂いていますありがとうございます (2020年7月6日 13時) (レス) id: 84fa2ad3c6 (このIDを非表示/違反報告)
さち - すごくおもしろいです。後日談も気になりますが、このままでも十分ですよね。次回作も楽しみです。よろしくお願いします。 (2020年7月6日 13時) (レス) id: 45c5a17459 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - ああもう!お疲れ様でした!最高でした。途中途中で涙ぐみながらハッピーエンドで幸せいっぱい!夢主ちゃん良かったああ (2020年7月5日 19時) (レス) id: a1083db659 (このIDを非表示/違反報告)
オトハ - めっちゃ好きです。これからも無理せずに頑張ってください! なぜ高評価は一回しか押せないのだろうか、 (2020年6月15日 17時) (レス) id: ef611ec012 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:みやの | 作成日時:2019年12月15日 17時

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